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十数年前、軍閥は諸外国との戦闘における軍の主導権争いから発生した。
余剰となった軍は本国へ戻り、弱体した政府から統治を引き継ぐと宣言した。発言権の確保から始まった、軍閥同士の陣取りゲームは演習程度の小競り合いが主だったが決着しにくく、国民は勝手な統治による徴用と略奪、損壊の損害を受けた。均衡が見えた頃、政府が好機とみなして監視部を設置し、相互監視による均衡を得るまで続いた。
ケインが所属していた軍閥は隣の軍閥が占拠する橋の制圧を立案した。現在制圧しているシティエンドから、別の軍閥が制圧している橋梁の先から区域であるシティフラットへ進出する際の経路が必要だった。
軍閥の上層は中尉のケインを推した。ケインは将校で最も若く、柔軟で実直な人物だった。
ケインは狭い橋梁の制圧は乗り気ではなく、将校が推した訓練の浅い新兵を使う作戦に反発した。
上層は新兵の訓練を兼ねると答えた。また橋塔は慰安所も同然の施設になっていて、倫理から見逃せないと説得した。更に捜し物があるかも知れないとたき付け、部隊の指揮権を含む、幾許かの条件を飲んだ。
ケインは上層が簡単に条件を飲んだのに疑念を覚えたが、飲んだ限りは拒否出来なかった。新兵を招集し、簡単な訓練をしてから橋の制圧に当たった。
相手は動きを察知していたが部隊は練度が低く、数も小隊に満たないと報告を受けていた。元々軍閥同士の争いは同士討ちになる為に過剰な戦闘は発生しない。最小限の人員と武装で守備に入れば問題ないと判断していた。
ケインは制圧にあたって、近辺の車を可能な限り徴収して装甲を貼り合わせ、前面に動員して橋に入った。装甲車が不足していた為の措置だった。待ち伏せしていた部隊は見慣れない兵装に驚きつつも、蒸気を噴き出して突き進む車両を撃ち続けて足止めを試みる。
新兵は車両を盾にして、車両の進行と同時に銃を撃ち込み続ける。抵抗する兵士は抵抗するが兵装は銃と手りゅう弾だけだ。試みは失敗に終わり、圧倒する銃弾の雨に当たって次々と倒れていった。
相手の抵抗が収まった。
ケインの部隊は車両を盾に橋塔の入り口まで進んだ。車両が入り口の周囲に停車した。
車両のドアが開いた。搭乗していた重装備の新兵達が降り、次々と橋塔に入った。
橋塔では駐留している部隊が小銃を主軸に抵抗した。新兵はりゅう弾発射器を主軸に爆撃で攻めた。爆音と衝撃が橋塔内にこだまし、障害物の破壊と共に兵士を爆殺して制圧して奥へと進んでいった。
新兵達は最上階に攻め入った。
最上階はコンクリートの壁が囲っていた。天井は無数の歯車がかみ合って動き、鎖を引っ張って橋塔に設置してある時計を動かしている。無数の糸が壁のパイプから貼り巡っていて、粗末なキャノピーがつり下がっている。キャノピーから伸びるベールは分厚く、ベッドの上面を覆い隠していた。隅には粗末な服を着た少女達が集まって固まり、震えていた。
新兵達は分散し、ベールを剥ぎ取って状況を確認した。ベールの先には粗末な下着を着た少女が震えていた。銃を突きつけると、少女は抵抗せずに震えていた。罵声を浴びせると少女は震えた。隣にいた少女は新兵の目を盗んでベッドに置いてあるハサミを手に取り、新兵を突き刺す体勢に入る。新兵は少女の動きを察知し、銃を撃った。銃弾は少女の肩に当たった。少女は肩から血を流してベッドに倒れた。
一人の新兵が倒れた少女を見つめた。少女は苦しげに息をしている。銃を頭に突きつける。別の新兵が来て止めると少女の腕を引っ張り、入り口まで連行した。
少女の一人であるジュメリアは新兵と少女のやり取りを見て、床に散らばっているガラスの破片を拾った。新兵が現れ、少女の腕を引っ張って連れ出した。橋塔から橋桁へ連れ出した。
橋桁では、新兵が敵兵の死体を川へ投げ落としていた。
新兵は連れてきた少女の服を乱暴に剥がして体を観察しつつ、体にあるタトゥーの位置と内容をメモに取っていた。検査を終えると車両へ連れ出していた。
少女達は新兵の作業に恐怖を覚えた。
新兵がジュメリアに近づき、服を剥がす為に手をかけた。少女の首筋にコードと数字が彫り込んであった。
ジュメリアは隙を狙い、ガラスの破片を新兵の首に勢い良く突き刺した。新兵の首に無防備なままガラスの破片が刺さる。力を入れて奥へ突き刺し、かき切った。
新兵は声を上げず、首から血が吹き出して
周りの新兵達はジュメリアを取り囲み、一斉に殴りかかった。ジュメリアは抵抗する間もなく倒れた。他の兵士は一斉に少女を蹴り始めた。
ジュメリアは痛みに耐え、ガラス片を拳に隠して反撃の機会をうかがっていた。体は重く痛みに染まっていくが、信念により意識を保ち続けた。
新兵達は意識を失わず、ぎらついた目付きをして耐えるジュメリアにいら立った。蹴るのに飽きを覚えてきた。
一人の新兵が腰のホルスターから銃を取り出した。
銃声が遠くから鳴り響いた。新兵達は一斉に作業を止め、銃声がした方を向いた。将校達が空に向かって銃を構えていた。
将校達は新兵の集団に入り込み、暴行した少年を捕まえて殴りつけた。
ケインが将校達をはねのけて新兵達の元に来た。ケインは裸の少女達を冷徹な目つきで見つめた。「何をしていた」うずくまった新兵に尋ねた。
新兵は少女を指さし、死体になった新兵を見つめた。「奴が殺したんだ」
ケインは新兵の死体に目を向けた。死体は首から血が出ていて、目を開けたままだ。かがんで死体の目を閉ざした。「予め検査をしていれば問題はなかった。体腔<<たいくう>>検査も含めて調べ上げたのか」
新兵はケインの目つきに戦慄を覚えた。「けど殺したんだ、歯向かう奴は予め潰て置かないと悪化する」
「調べたのかと聞いている」
新兵は黙った。
ケインは部下の軍人を呼びつけた。「縛って連れておけ。検査を欠いた貴様達の落ち度だ」新兵を後方へ運び出した。
部下はジュメリアの体を無理に起こして体を弄った。ジュメリアは抵抗したが、大人の力と弱っていた体では無力だった。少女の手をこじ開け、血のついたガラス片を落とした。
ケインはジュメリアの前に来た。一瞬、驚いた表情をした。
少女は緊張で力を入れたが、増幅した痛みが邪魔をしている。
ケインは少女が落としたガラスの破片を拾った。ガラスの破片は鋭く、血がついている。首をかき切るにしては短く、急所に深く差し込まないと致命にならない。深く差し込んでから抜く力と技量がある。「手癖は見事だな、教えてもらったのか。軍に知り合いはいたか」穏やかな口調で少女に話しかけ、帽子を取った。彫が深く、張りのある顔つきをしている。
ジュメリアは何も答えない。
ケインはコートから写真を取り出し、ジュメリアの顔と交互に見た。写っている少女はジュメリアと似ている。ジュメリアに顔を近づけた。「プレストンという男を知っているか」
ジュメリアはケインをにらみつけている。
ケインはため息をついた。「名前は」
ジュメリアはケインをにらんだ。口をつぐんだままで答えない。
「答えろ」新兵はジュメリアに銃を突きつけた。
ケインは新兵の手をはねのけた。「やめろ、脅しても答えは出ない」
新兵は手を引いた。
ケインはジュメリアの態度に顔をしかめた。「名前がないなら、周りがお前を何と呼んでいたか答えてくれないか。一言でいい、言えば仲間も傷つけずに保護する」
「仲間も」
ケインはうなづいた。
「ウソつき」少女は強い口調で返した。「殺すんでしょ、皆裸にして口や尻に手を突っ込んで楽しんで。最低よ」
「怖いんだ」ケインはジュメリアを見つめ、ガラス片をかざした。「兵士だって人間だ、死ぬのは怖い。不意をつけば当然抵抗する。何もしなければ、何もしない。お互い様だ」
ジュメリアはケインから目を背けた。ケインの目は戦意を奪う目をしている。
「素直に質問に答えてくれればいい。答えるだけで温かいスープを腹がふくれるまで食えるし、ふかふかのベッドで満足に熟睡出来る。悪くない話だ、さあ答えてくれ」
ジュメリアはケインの表情を見た。軍人としての厳しさに穏やかさが混じっている。
「名前は」
ジュメリアは緩やかに息を吸った。「ユメリア」かすれた声を発した。
ケインはうなり、部下の一人を呼びつけた。「彼女を丁重に手当して運べ。回収した子供に乱暴する輩は即殺すと伝えろ」部下に命令した。
部下は了承し、ジュメリアを運び出した。
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