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被疑者1
武男のデスクの上には津島と小出がまとめた報告書が置かれている。アナログな武男を気遣って、小出がプリントアウトしたのだろう。
もう何度も読み返している。そして読めば読むほどに心当たりを感じる。彼が犯人であってほしくない。証拠は何もない。だが、状況は彼が犯人だと指し示している。間違いは……ないだろう。彼はホワイト興産なのだろうか? いや……多分違う。自分が彼の立場だったら果たして……
武男は昨日、川島医師に連絡を取った。理由は言わなかった。今日の二十一時、日暮里の例のバーで会う事になっている。
電話口の川島は落ち着いていた。だが、全てを察しているようであった。
浩一の目を閉じて、冷たい頬にキスをした。
言われた通りガラステーブルの上には、エルメスのトートバッグとプラダのトートバッグ、その隣には一通の遺書が置かれていた。
遺書の宛名は北川武男 その上にはSDカードが置かれている。
エルメスのバックを覗き込むと、自分宛の遺書と現金、そしてパネライの腕時計が入っていた。
パネライを握りしめる麗奈の瞳から、涙が溢れ出して行く。
麗奈は浩一がいつも着けているパネライが気に入っていた。初めてこの時計を見たのは……ストーカー被害にあっていた時だから、もう七年以上前になる。あの頃、麗奈は都内にある大学病院の心療内科に通っていた。それが浩一との出会いだった。
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