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被疑者3
その後二人の関係は友達以上に進展した。かといって男と女の関係でもなく、それはお互いにとって絶妙な距離感だった。麗奈は浩一の事が大好きだった。
麗奈にとって浩一のトレードマークはパネライの時計だった。とても似合っていた。彼に会うたびにその時計を褒め、いつか頂戴ねと、言っていた。そんな時、浩一はいつも、俺が死んだら君に形見分けするよと……まさかほんとに死ぬなんて……
麗奈は、エルメスとプラダのバックをもって、浩一のクリニックを後にした。
事務所に戻り、バッグの中に入っていたスカーフを開くと、一千万円の現金が入っていた。
「浩一のバカ……お金なんかいらないのに……」
麗奈は涙で濡れた手で遺書を広げた。
親愛なる麗奈へ
ありがとう。君には感謝しかない。こんな私のわがままを最後まで聞いてくれて、本当にありがとう。
知っての通り、人付き合いが苦手の私は、恋人はおろか友人も作ってはこなかった。だが麗奈、君は例外だった。君は私にとって恋人であり、友人であり、そして母親にも近い存在だった。だから、すこし甘えすぎてしまったようだ。その点については、もう遅いが後悔をしている。すまなかった。
こんな私でも家族を持つ事になり、君に報告したとき、君は心から祝福してくれた。そして事件後、ここまで私が生きてこられたのも麗奈、君のおかげだ。本当にありがとう。
死後まで、君にお願いをしなければならない事、非常に心苦しいが、京子が心配だ。彼女をフォローしてやってほしい。
わずかですまないが、その金は私の心ばかりの気持ちだから受け取ってくれ。
追伸 このパネライ。大事に使えよ!
麗奈は涙を拭いて立ち上がり、プラダを持って三枝京子の元に向かった。
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