浩一と京子2

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浩一と京子2

 京子はたまに何かに怯える様な目をする事がある。いや、先入観により、そう見えるのかもしれないが、それ以外は目立った精神的異常は認められない。このクリニックに来るのは単に興味本位からか、それとも……だが少なくとも彼女の精神状態はほぼ安定している。ほぼ、というのはそう見えるだけである。医学的根拠はない。  ほぼ、の原因として両親を同時期に失った事による精神的ショック。最初はそう思ったが、どうやらそうではないらしい。京子の話によると、物心着いた頃から父親は家にいたことはほとんどなく、たまに家にいる事があっても会話はなく、他人のような存在だったという。  母親は異常なほどの見栄っ張りで、父親がいなくなった時も、京子の事よりも自分の行く末を心配していたという。だから大学に入ったばかりの一人娘である京子をおいて一人で自殺してしまったのだという。  彼女曰く、母親の死よりも、以前飼っていたラブラドールが死んだ時の方が余程ショックだったと言った。  どこまでが本心なのか不明だが、本人曰く、そんなわけで周りが心配するほどショックは受けていないと言う。  しかし、今日の彼女はいつもと違って全く落ち着きがない。浩一と目を合わす事無く、何度も脚を組み替えている。その度にミニスカートの奥の下着が見え隠れするが、それを意識してやっているわけではないという事は様子を見ればわかる。明らかに怯えている。  学校帰りにそのままここに来たようで、紺色のクロエのバックから実践薬学と見出しがつけられたノートがはみ出ている。
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