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浩一と加奈子1
何十回、何百回と読み返している絵里の日記……幾度読み返しても、涙が溢れてくる。
私に万年筆をプレゼントしてくれた日も絵里は日記を書いていた。
お母さん、あんな素敵な人と恋愛をしたんだね。
お母さんは先生の事、昔ちょっと付き合った事がある人だと言ったよね。でもそれ以上は話したくなさそうだし、だから私も聞かない。
私はお母さんも先生も大好き。お母さんと先生、結婚するのかな? して欲しいなあ。
そんなわけで……どんなわけだ? 今日は先生に渡すプレゼントを買った。メッチャ悩んだんだぞ。気に入ってくれるといいなあ。
絵里に貰ったセーラーの万年筆。これを使い続ける為、当時検討していた電子カルテ化は見送った。自分と看護師の二人だけで診療している小さなクリニック故、紙のカルテだからといって特に困る事はない。
加奈子がここに来たのは本当に偶然だった。事実は小説より奇なり……とはよく言ったものだ。
もう五年程前になる。浩一は目を閉じて当時を思い出した。
ここ、この小さなクリニックで偶然にも加奈子……多良間加奈子に再会した。
加奈子は浩一が医大の六年生の時、ほんの一時、付き合った女性だった。なぜそこまで彼女の事を鮮明に覚えているのか……
浩一にとって加奈子は、本当に愛した初めての女性だった。彼女は、いわゆる風俗の女であったが、日本人離れした顔立ちと、沖縄特有のイントネーションがとても気に入って、何度か彼女のいる店に足を運んだのだ。
それだけであれば、よくある客と嬢の関係であるが、ある日、二人共、孤児であった事を知り、それ以来、急速に親密な関係に発展した。
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