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浩一と加奈子2
浩一は物心ついたころは既に、孤児院で生活していた。院長曰く、その孤児院から数十メートル離れた草むらの中に自分は置かれていたという。生後一週間ほどの新生児で、衰弱しており、発見当時は乳児の遺体が捨てられたと思ったらしい。
私が今こうして生きていられるのは、日本という国とあの孤児院のおかげである。
当時、ホームの院長やスタッフ、地元警察が乳児の置き去りとして捜査をしたようであるが、有力な手がかりは見つからなかったらしい。
私の名前は、当時の担当する自治体がつけた名前である。名前の由来については院長が説明してくれた。ありきたりな理由であったが、とても感謝している。名前については、気に入らなければ変更も可能だと言われたが、そのつもりは無い。
多良間加奈子もまた孤児だった。彼女の母親は未婚の母で、加奈子が五歳の時に亡くなっている。病死だったと言う。母親には、親も身内と呼べる親戚も無く、財産も無かった為、孤児としてホームに引き取られたようである。
二人は、まるで前世からの恋人であったかのように惹かれあい愛しあった。
浩一が医師の国家試験に合格した翌日、加奈子は自分の借金について告白した。
だが浩一は薄々感づいていた。彼女のアパートには大きな荷物も生活感も無かったし、収入の割には質素な暮らしぶりで、常に来客に怯えている様な雰囲気があった。それについて聞くと、いつも話をそらされていた。
浩一は言った。―結婚しよう。 今日から俺は医者で、学生じゃない。借金は俺が返す。だからもう風俗で働かなくていいと。
加奈子は涙を流して浩一に抱きついた。―ありがとう。でも大丈夫。彼女はそう答えた。
翌日、一通の手紙を置いて彼女は浩一の前から姿を消した。
今までありがとう。さようなら―それだけだった。
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