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現れた男1
浩一が加奈子を葬り、クリニックを一時閉鎖して一年の月日が経っていた。
あれからずっと、浩一は絵里の自殺について調べてきた。だが、何も分からなかった。仮に原因が分かったとしても、彼女は帰って来ない。加奈子も絵里も逝ってしまった……
もうこれ以上生きていく事ができない―死ぬのは簡単だし、恐怖も無い。幸いにして、ここには大量の麻薬系向精神薬がある。
全てを用意して翼状針を眺めていた時、チャイムがなった。
ドアを開けるとそこにスーツ姿で強面の男が立っていた。初めて見る人物だった。
「突然失礼いたします。私、富永と申しますが、川島先生でしょうか?」
「はい、そうですが?」
「恥ずかしながらわたくし、元、こういう者ですが……」富永と名乗った男は名刺を差し出した。
浩一は渡された名刺と本人を、ゆっくりと見比べた。
「元?」
「はい。嘘をつきたくありませんので―不快に思われるかもしれませんが、私は過去、そういう団体に所属していました。ですが、誓って言います。私および私の元所属団体が貴方にご迷惑をかけることは決してありません」
その見た目からは想像ができない程、富永という男は丁寧だった。
「今は何を?」
「はい。仕事を辞め、息子の死の真相について調べています」
「え?」
「私がここに来たのは、私の息子と絵里さん―多良間絵里さんの死について、不審な点を見つけたからです」
「え?」
「はい。驚くのは無理もないと思いますが、まずは私の話を聞いて頂けますでしょうか」
富永が嘘を言っているようには見えなかったので、浩一は彼を部屋に招き入れ、急いで、先程用意していた点滴セットを片付けた。
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