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現れた男5
「先程の話を警察には?」
「話していません。警察は信用できません。証拠があるわけではありませんが、事件の隠蔽に警察が関与していると思われます」
「そう言われれば、警察の対応は不自然でした……現状、全面的に警察を信用するのは危険という事ですね」
「はい。私は全く警察を信用していません。博孝には、明らかに殴られたと思われる傷があったが、警察は落下でついた傷だといいました」
「解剖は? 解剖すればその傷が殴打によるものか落下によるものか、わかりますよ」
「勿論、渋る警察で粘って博孝の解剖をお願いしました。そして、やっと解剖が行われたのですが、結果は落下による傷と断定されました」
「富永さん……解剖した機関と執刀医は分かりますか?」
「いえ……教えては貰えませんでした」
「確かに、疑問が残りますね……私の時も、山梨の警察でしたが、説明は自殺の一点張りで、私の話は聞いてもらえませんでした。絵里の解剖も私の希望で行われましたが、死後半年が経過していた為、何も分かりませんでした」
「やはりそうでしたか……私は、この件では末端の警察署に圧力がかかっていると感じました。博孝の解剖結果も捏造されたのだと思います」
二人は顔を見合わせた。
「私も、いくつかの調査会社を使ったのですが、絵里の足取りが全くわかりませんでした。なぜ……どうして、どうやって富士山麓にいったのか? ある調査会社が言ったんです。プロでも、ここまで軌跡を消す事は難しいと……」
「はい。何がどうなっているのか分かりませんが、もし犯人を、犯人達を警察に突き出すなら……決定的で、絶対に覆される事のない証拠を探さなければなりません……」
「いや……私は……本当に絵里が殺されていたのなら……その犯人を警察なんかに、みすみす渡すつもりは……」
「良かった―私も同感です」
富永はテーブルの片隅に追いやられた点滴セットを横目で見ながら言った「先生―協力しませんか?」
「勿論です」
二人は握手を交わした。
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