ホワイト興産5

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ホワイト興産5

「お前の目的を言え」武男は、やや落ち着きを取り戻してそう言うと、煙草に火を点けた。 「いや、目的なんて無い……」小松は火を点けたばかりの煙草をもみ消した。 「おい! まさか、南沢……」 「わからん、わからんが富永が犯人でない事は確かだ」小松が全員を見回してから続けた。「当日、富永の息子と一緒にいた自殺した女子高生……多良間絵里って子は母子家庭の子だった。母親が死んだ今、身内はいないし、俺が調べた限りじゃ、変わって仇討するような人物はいなかった。そのくらいはお前ら警察にも調べはついているんじゃないか?」 「小松! 貴様!」 「おいおい、そう怒るな。俺が多良間絵里の話を富永から聞いたのは最近だ。奴は警察には話していないと言っていた。―警察は信用できないと言っていた」 「まあ……上から圧力があったのは否めない……」 「北川、別にお前を責めている訳じゃない。どこの世界にも理不尽なことはあるさ」 「てことは……小松! やはりあいつらを―南沢、入谷、沢口を殺ったのはホワイト興産だと言いたいのか? そもそも富永は何と言っている? 奴はホワイト興産の事を知っているのか?」 「ああ、存在は知っているはずだ。でも今……富永は何も語らない……」 「それが答えじゃないのか!」武男は興奮して拳を握りしめた。  勿論、一連の殺人がホワイト興産だと決まったわけではない。だが、犯人の目星もついていないのが現状だった。 「もし、この猟奇連続殺人の黒幕がホワイト興産だとすると……田代香苗はホワイト興産の人間を見ている。という事になりますね?」鳴沢が首を傾げる「てことは田代香苗の証言は当てにならないと考えた方がよさそうですね」 「ああ。この前、田代に会った麗子も言っていたが、犯人像はコンバットスーツを着たガタイのいい男で一言もしゃべらなかったと……以前の証言そのままだったと言っていた」 「田代が嘘をついているのか? それとも真実を語っているのか……全くわかりませんね」  小松が再び煙草に火を点ける「奴らが何人いるのか知らんが、その中の一人、木下という男とは面識がある」 「木下?」 「もちろん偽名だろうが、信用できる男だった。木下とは、きっちり半年に一度会っていた。もう何年も続いている。六月と十二月、例外は無かった。最後に木下と会ったのは昨年の六月だ。今は年が明けて一月。もう木下に会うことはないだろう」 「話がみえんが?」 「木下は既に死んでいるのかもしれん」 「根拠は?」 「昨年六月に会った時、奴が言ったんだ。十二月に会う事が無ければ、もう会う事はないだろうと言っていた……奴の口ぶりから、それが死を意味するように感じた……まあそう感じただけだ」 「意味が分からないが?」武男が小松を睨む。
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