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ホワイト興産6
「俺もハッキリと聞いたわけじゃないが、ホワイト興産は解散したらしい」
「は? 解散だと? 木下がお前にそう言ったのか?」
「六月に木下に会った時にそう聞いた。年内に解散すると。で、佐川に気を付けろとも言っていた」
「佐川だと?」
「ああ、佐川組だ。木下は多くを語らなかったし、俺も詳しい事はしらんが、佐川にはお抱えの政治家がいる」
「仙谷か?」
「ああ、そうだ」
「木下がそう言ったのか? 仙谷と佐川が繋がっていると……」
「それもあるが、裏の世界じゃ割と有名な話だ。だからこの世界の連中は誰も佐川には手を出さない」
「小松! 貴様それを知ってて」
「おっと北川! 勘違いするなよ! 俺はヤクザだったんだ。下手な正義感かざして、身内を危険に晒す事はしない!」
「…………」
「もうこれ以上、佐川のチンピラでいることはできない。俺にもポリシーってものがある」小松はグラスに残ったバランタインを飲み干した。
「で、おとしまえとして組を解散して縄張りを渡して、さらにはビルまでくれてやったのか?」武男が煙草を小松に突き付ける。
「そういう事だ」
「マジか」鳴沢が自分で自分の頬を叩いて言った「で、ホワイト興産はなぜ解散したんだ?」
「さあな、詳しい事は知らんが、スポンサーもホワイト興産も高齢になって後継者がいない……そんなとこじゃないのか?」
「あ?」
「いや、ほんとの事はわからん。そもそも解散てのもほんとの話かわからんが、奴は……木下はそう嘆いていた」小松は天井を仰ぎ見て続けた「奴が俺に嘘をつくとは思えないから、いずれにしろ解散てのは間違いないだろう」
「ホワイト興産の構成員は何人なんだ?」と武男。
「さあな……木下の口ぶりだと少数精鋭―せいぜい三~四人程のチームだったと予想するが、解散したら全員消えると言っていた」
「あ? 消えるだと?」武男が小松を睨む。
「ああそうだ。消える……木下は消える、としか言わなかった。解散するだけなのか? 死ぬのか? 殺されるのか? 海外にでも逃亡するのか? その辺の経緯は知らん」
「小松! お前さっき、木下は死んでるかもと言っただろ。それは殺されるという事か?」武男が凄む。
「いや……わからんが、そういう印象は受けなかった……あくまでも俺の感にすぎない」
その場にいる強面の男全員が、しんと押し黙ってしまった。小松の告白はそれ程衝撃的なものだった。
しばらくの沈黙の後、武男が口を開いた。
「おい! その話が本当だとしたら、入谷や沢口、南沢の抹殺をはかったのはホワイト興産て仮説は成り立たないだろ! 解散の後で正義の殺しを? それもあんなに手の込んだ殺しをやるか?」
「ああ、それについては甚だ疑問だが……奴が、富永がやってないという事はそう言う事だろう。最後の仕事だったのかもしれん」
「富永には、ちゃんと聞いてみたのか?」
「ああ、聞いたよ。殺ったのは自分じゃない。ほんとは自分で殺りたかったと言っていた」
「富永はホワイト興産と接触したのか?」
「わからんが、多分接触しているだろうな。そいつが木下なのか? それもわからんし、富永は絶対に口を割らないだろう」
「くそ!」鳴沢が毒づく「多良間絵里の身内は誰もいないから、そっちからの線は無いということか」
「そう言う事だな。いずれにしろ、もうホワイト興産は存在しないし、そのボスも永遠にわからないだろう」小松は空になったグラスに水を満たして一口飲んだ「俺が言いたいのは、富永は南沢達を殺った犯人じゃない。それを伝えたかっただけだ」
「なぜそこまでリスクを侵して奴を庇う?」
「俺と富永は……言わば戦友だ」
「そうか……」
「少なくとも俺はホワイト興産に……木下に感謝している」小松は水のグラスを一気に煽った。
「で? 小松、お前は俺にどうして欲しい? 黒幕をあぶりだして欲しいのか?」
「いや、そんな事はどうだっていい。そもそも黒幕は永遠に分からないだろう。お前が富永の無実を信じてくれたなら、それでいい」
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