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木下2
小出は元々警視庁本部の人間だった。刑事というよりは、優秀な分析官である。しかし、小出も津島同様、組織、特に警察組織に馴染める体質ではなかった。気が弱いのである。現場の上司や同僚からいじめにあい、萎縮していた。小出のような人間は、その能力を評価し、適所に配属してやらなければ宝の持ち腐れになる。ようは、上司がバカなのである。警視庁本部とは言え、たたき上げの筋肉バカは存在する。でも小出は運が良かった。小出の同期で、キャリア警察官である竹本警視正が、小出を見かねて武男に相談にきたのだ。武男は竹本警視の事を知らなかったが、彼は武男の事を知っていた。津島と鳴沢の件で知ったのだと言っていた。竹本警視の話だと、小出とは高校の同級で、高校時代から、小出はいじめにあう‘体質‘であったらしい。高校時代はほとんど不登校で、出席日数から逆算して、卒業がやっとであったという。にも関わらず、小出は都内の有名私立大学に合格した。竹本は東大卒であるが、小出の方が頭はいいはずだとも言っていた。そんな元同級生を心配して武男を訪ねてきたのである。どうやら、鳴沢と津島の件は有名であるらしい。最も、武男の評判からして、悪い意味での有名という事は想像がつく。竹本がどうやったのかは分からないし、そんな事はどうでもよかったが、小出は千葉県警察本部に移動になった。そもそもキャリアではない地方公務員の小出が、千葉県警に移動する事などあり得ないのである。いずれにしろ、武男の部下となった小出は本来の力を発揮した。
この三人は武男に絶対の信頼を寄せている。そんな訳で、武男はホワイト興産の一件を彼等に話したのだ。
因みに、麗子が武男の部下に配属されたのは別の意味がある。キャリアではないが、彼女は女性管理職の育成要員としてやってきた。学歴、そして警察学校での成績。麗子には素質がある。まず所轄で下積みをし、その後、本部の刑事部でキャリアを積む。そして三〇代半ばで、警部補に昇級して、再び所轄に配属されるだろう。
日本は先進国の中でもずば抜けて女性管理職が少ない。県警としても、文句を言われる前に、実績をつくりたいのだ。で、何かと小うるさい、優秀な女刑事が武男の元に配属されたというわけである。つまり、麗子には武男を含めた四人とは違って輝かしい将来がある。こんな私的で危険な案件に巻き込むわけにはいかない。
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