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木下3
彼等の仕事は早かった。津島が三日という短期間で、多くの情報を収集してくれた(机の上の女の子達は先週のままローテーションされていないので、泊まり込みだったようだ)
鳴沢は津島の情報を元に各地を飛び回り、粗方の裏を取ってきた。小出がそれらの情報をまとめ、考察まで加えて武男に提出したのは小松と会った日から数えて僅か五日目だった。
麗子には聞かれたくなかったので、会議室を使う事にした。小出が皆に資料を渡し、説明を始めた。鳴沢は資料を見つめたまま唇を噛んでいる。津島は資料にはめもくれずに、持参したノートパソコンのキーを叩いている。今日の小出は珍しく銀縁の眼鏡だ。そのせいか心なし精悍な印象を受ける。
「結論から言うと小松の言った事は事実だと思います」そう前置きしてから、報告を始めた。小出の報告は簡潔で分かりやすかった。
あの事故で死亡したミニバンの運転手、フリージャーナリストの沢村英二は七年前、つまり、事故の二年前に静岡県、清水市の市長(柳沢幸喜)と佐川組系暴力団、江藤組との癒着について調べていた。そして沢村の告発によって、市長退陣に追い込まれた柳沢は‘暴力団との癒着は無かった‘という遺書をしたためて自殺している。
沢村の告発内容はかなり具体的なもののようであったが、決定的な証拠はなかった。警察の調べでも、限りなく黒ではあったが、当人が自殺してしまった為、それ以上の追求を諦め、結果として江藤組に逮捕者が出る事は無かったという。
「実際のところ、どうなんだ?」
「百%黒ですね」津島が答えた。
「根拠はいくらでも示せますが、まあここで問題なのは地元警察のずさんな捜査です。柳沢は自殺ではなく、江藤組に殺されたとみて間違いないでしょう。遺書も無理やり書かされたものだと思います。状況証拠とその後の経緯からも疑う余地はありません」小出が答えた。
更に詳しい裏どりをしないと百%とは言えないが、それは今回の目的ではない。江藤組は傘下の土木、建設会社への事業発注の見返り、更には市政を取り巻く厄介ごとの請負などを、歴代の市長と結託して行ってきた。長年にわたるズブズブの関係である。黙っていても金が落ちてくるこのシステムを沢村英二に潰されてしまったのだ。江藤が沢村を狙う根拠としては充分だ。そして、江藤が刺客として使ったのが、トラックの運転手である荻原衛である。これは所轄の捜査からは出てこなかった情報だ。
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