42 フェスティバル 中編

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42 フェスティバル 中編

大勢の人でにぎわう町中を私とイザークはあてもなく歩いていた。 「イザーク、これからどうする?」 「……レティシアは何処か見たい店とかは無いのか?」 「そうね。私はこれからもいつでもお店にはいけるから大丈夫。それよりもイザークは何処か行きたいお店は無いの?」 「別に……俺はいい」 「そう? 本当にいいの?」 「ああ、レティシアが行きたい店でいいんだ」 「そうなの……?」 やっぱりイザークは何を考えているのか分からない。その時、ふと私の目に屋台が並んでいる通りが目に入った。 「そうだわ。イザーク。お腹空かない? 屋台で何か食べてみる?」 「ええ!? や、屋台でか?」 目を見開くイザーク。 「変かしら……?」 「変と言うか……あまり貴族令嬢が行くような場所じゃないだろう?」 「そうだったのね。私、こういう賑やかなお祭りに来たことが無かったから知らなくて」 「何だって? 一度も来たことが無かったのか?」 「ええ、そうよ」 「分かった。なら屋台に行ってみよう」 イザークは背を向けると屋台へ向かって歩いていく。 「え? ちょ、ちょっと!」 私は慌ててイザークの背中を追った。 **** 「これ、美味しいわね」 「そうだな」 ベンチに座って、私とイザークは屋台で買った料理を食べていた。丸く焼いた生地に具材を挟んだ料理は食べやすかった。 「それじゃ、そろそろ花火の時間だ。待ち合わせの場所へ行ってみよう」 「ええ、そうね」 屋台料理を食べ終えた私たちは、待ち合わせ場所へ向かった―― 待ち合わせ場所の時計台の周囲は人で溢れかえっていた。けれど、ふたりの姿は見当たらない。 「……いないわね」 「ああ、そうだな。もうすぐ花火が始まるって言うのに……」 イザークは腕時計を見ながらため息をついた。 そのとき―― ドーンッ! 突然頭上で大きな音が響き、驚いて見上げると夜空に大きな花火が浮かんでいた。 「まぁ……綺麗……!」 生まれて初めて見る花火の美しさに、思わず感嘆のため息がもれる。 「ああ、本当だな…‥」 その後も次々と花火が打ち上げられ、私とイザークは無言で花火を見上げていた。 どれくらいの間、花火を見ていただろう。不意にイザークに名前を呼ばれた。 「レティシア……」 「何?」 見るとイザークは真剣な表情で私を見つめている。 「本当に、もう……父親とは暮らさないつもりか?」 「ええ。この島に来る前から、そう決めていたから」 「あの家から義母とフィオナがいなくなってもか?」 私は答えに詰まった。最初、島を出たときは自分が邪魔者だと思っていたから家を出たけれども、今となっては状況が違う。 父はイメルダ夫人とフィオナを追い出そうとしているし、私はもうセブランに何の未練もない。 だけど…… 「戻らないわ。私はこの島が好き。それにおじい様とおばあ様のことも大好きだから」 「そう……なのか……」 「ごめんなさい、イザーク」 ポツリと呟くイザークを見ていると罪悪感が込み上げてきた。 「何故、謝るんだ?」 「だって、ヴィオラに付き添って私を捜す為にこの島まで来てくれたのでしょう?でも私はもう『リーフ』の暮らしに戻るつもりはないから手間を掛けさせてしまったわよね? イザークまで巻き込んでしまったし」 「……違う」 イザークが俯く。 「何が違うの?」 「俺は……ヴィオラに付き添って、この島へ来たんじゃない。俺の意思でここへ来たんだ。ついてきたのはヴィオラの方だ」 「え? そうだったの?」 だけど、何故イザークが私を捜しに?  「……」 イザークは悲し気な目で私を見つめている。そして彼が口を開いたその瞬間。 ドーンッ!! 頭上で美しい花火が上がり、イザークの声はかき消された。 「ごめんなさい、今何て言ったの? 花火の音で聞こえなくて」 すると…… 「好きだ」 イザークの口が動いた。 「……え?」 一瞬、何を言われているのか分からずに聞き直した。 「あ、あの。今、何て……?」 すると今度は、はっきり聞こえた。 「俺はレティシアが好きだ。だから突然いなくなった君を捜してここまで来たんだ。ヴィオラはそんな俺についてきただけだ」 「ほ、本当に……? どうして……?」 あまりにも突然の告白だったので、私は妙な質問をしてしまった。 「高等部に進学してすぐのことだ。怪我していた俺を手当てしてくれただろう? その時からずっと好きだった。だけど、レティシアには‥‥…セブランがいたから黙っていたんだ」 淡々と語るイザーク。 「あの日、卒業パーティーのとき……レティシアを呼び止めたのは最後の思い出にダンスの相手になってもらいたかったからだ。けれど、君は消えてしまった。それで捜しに行こうとしたときに、ヴィオラが一緒に行くと言い出して……ふたりでここまで来たんだ」 知らなかった。イザークが私に好意を寄せていたなんて。それどころか…… 「私……てっきり、ヴィオラとイザークは交際しているかとばかり思っていたわ」 「ヴィオラは、俺がレティシアを好きなことを知っている。それに彼女から告白もされた」 「え! ほ、本当に……? いつ……?」 あまりの言葉に耳を疑った。 「観光巡りをして、帰ってきてからだ。突然ヴィオラが部屋を訪ねてきて……告白された。けれど、断ったんだ。俺の好きな女性はレティシアだからと言って。ヴィオラには悪いことをしたと思っている。」 「そ、そんな……」 まさかヴィオラがイザークに告白して……失恋していたなんて。でも2人の様子がおかしかったのは確かだ。 「俺はレティシアが好きだ。告白の返事……聞かせてくれないか?」 イザークはじっと見つめてくる。だけど…… 「ご、ごめんなさい……」 私はイザークに謝った――
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