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「そう! 西宮君って、いい人なんだよ! こないだだってね……」
紅潮した顔で、僕の知らないエピソードを語る倉橋さん。
彼女がどれだけ西宮のことが好きということは理解した。
僕の入る隙間が1ミリもないことも……。
「それでね。佐藤君にお願いしたいことがあるんだ」
「いいよ、何でも言って!」
半分やけになっていたかもしれないが、僕は努めて明るい声を出す。もう、これは敗北が確定した消化試合。結果は変わらない。早く終わらすべきだ。
「それで、何をすればいいのかな?」
「うん、西宮君に好きな人っているのか、聞いてもらいたいんだ。佐藤君、西宮君とすごく仲がいいから」
「ああ、そんなこと。お安いご用だよ」
「ありがとう! 佐藤君に相談してよかった。やっぱり、佐藤君はいい人だよね」
倉橋さんに微笑みかけられると、悔しいが胸が高鳴ってしまう。
彼女が僕を評するいい人は、西宮とは決定的に違う。永遠に好きな人にレベルアップすることはない。
だけどせめて、いい人のままで、彼女の思い出の1ページに残してもらいたい……ってのは、かっこつけすぎか。
彼女が去ってからも、僕はしばらく屋上のフェンスにもたれかかっていた。
あれ、おかしいな……。
急速にあたりの視界がぼやけて、頬に熱い物が流れてくる。
……いやいや、まいったね。
あたりまえだが、失恋が初めてって訳じゃない。
……というか、好きになった数だけ失恋してきた。
失恋のプロフェッショナルのつもりだった。
でも、今回のダメージはでかい。
彼女の前で泣かないのが、精一杯だった。
***
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