50パーセントの恋

1/12

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「おはよう、佐藤君」 「おはよう、倉橋さん」  朝に交わすこの挨拶が、僕の心の清涼剤だ。  8時11分にこの道を通ると、倉橋さんといっしょに登校できる可能性が50パーセントくらいある。  待ち伏せをすれば毎日一緒に行けるけど、ストーカーと勘違いされたくはない。  あくまでも偶然で、僕らの登校時間が近いだけ。  学校まではほんの5分ほどの距離だけど、朝の至福のひとときだ。 「佐藤君は優しいよね。わざわざ私の歩調に合わせてくれるんだから」 「いや、そんなことはないよ」  倉橋さんの言葉にハッとした。女の子の歩調に合わせようなんて考えたことはない。ただ、この時間が長く続いてほしいと、いつもよりゆっくり歩いているだけだ。  でも、倉橋さんと歩くときは、ゆっくり歩こう。  僕は心の辞書に刻み込んだ。  いつからだろう、倉橋さんのことを目で追ってしまうようになったのは。  クジでたまたま、文化祭のクラス実行委員をやるようになってからかな。  二人っきりで、最終下校時刻まで看板に色を塗っていたのは、一生の思い出だ。  そのくせ、文化祭当日には、いっしょに見て回ろうと誘う勇気を出せなかったが……。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加