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「おはよう、佐藤君」
「おはよう、倉橋さん」
朝に交わすこの挨拶が、僕の心の清涼剤だ。
8時11分にこの道を通ると、倉橋さんといっしょに登校できる可能性が50パーセントくらいある。
待ち伏せをすれば毎日一緒に行けるけど、ストーカーと勘違いされたくはない。
あくまでも偶然で、僕らの登校時間が近いだけ。
学校まではほんの5分ほどの距離だけど、朝の至福のひとときだ。
「佐藤君は優しいよね。わざわざ私の歩調に合わせてくれるんだから」
「いや、そんなことはないよ」
倉橋さんの言葉にハッとした。女の子の歩調に合わせようなんて考えたことはない。ただ、この時間が長く続いてほしいと、いつもよりゆっくり歩いているだけだ。
でも、倉橋さんと歩くときは、ゆっくり歩こう。
僕は心の辞書に刻み込んだ。
いつからだろう、倉橋さんのことを目で追ってしまうようになったのは。
クジでたまたま、文化祭のクラス実行委員をやるようになってからかな。
二人っきりで、最終下校時刻まで看板に色を塗っていたのは、一生の思い出だ。
そのくせ、文化祭当日には、いっしょに見て回ろうと誘う勇気を出せなかったが……。
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