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夫と私と妄想絵本
「……それで、ふたりはどうなったの?」
夫の膝の上にちょこんと座った二歳の娘、有沙が尋ねる。
「ここで別れ別れになった二人を可哀想に思って、神様がこの二人を生まれ変わらせて、また引き合わせてくれたんだ。それが、パパとママなんだよ」
スケッチブックに手書きの絵を貼り付けたその絵本の最後のページをめくりながら、夫はそんなことを言う。
「……なんだ、またパパの妄想かよ!」
そう言うのは五歳の兄、理人。さっきまでしゃくりあげていたのに、そんな生意気なことを言うのだ。
「こら。お兄ちゃんは、そういうこと言わないの」
「へへーんだ!」
私は嗜めるけど、理人は鼻で笑って駆け出してしまう。その様子はいかにも生意気な悪ガキだけど、本当は泣いていたのが恥ずかしいのだろうと、私は思う。
「…………」
一方の有沙は、夫の膝の上で黙って、考え込んでいる。まだ二歳なのだから、深い考えには至らないとは思うのだが、この子は不思議と考え深げだ。その整った顔立ちと色素の薄い目は夫譲りだが、癖っ毛の夫と違って、私に似て髪の毛はまっすぐだ。
夫はその髪を優しく撫でて、言う。
「アリサの髪が、ママに似ていてよかった」
それを見て、私はついつい思い出してしまう。彼のその手が、飽きもせずに私の髪をずっとずっと撫でていた夜のことを。
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