夫と私と妄想絵本

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 私からすれば、夫は遠い国の人だ。  彼と私が出会ったのは、非常に奇妙な運命の巡り合わせという他はなかった。その話をすると長くなるのでここではしないが、それでも二人で、なんとか普通の家庭人として収まったのだ。今は夫の国で、仕事もしつつ、小さな子供たちの世話に追われる毎日だ。  すらっと丈が高く、整った外貌で、知性的でもあるこの夫。これだけ条件の揃った男性であれば、彼のことを望んでいた女性は結構いたんじゃないかと思う。なぜ私のような、小さくて目立たない地味な女を選んだのか、本当には分からない部分もある。  それでもその性格は、奇矯と言わざるを得ない部分がある。いつも物柔らかな姿勢を崩さない人ではあるけど、冷たかったり気まぐれな部分もあり、たとえば人種問題や国際問題などで気に入らないことを言った人間がいたら、ごく冷然と撥ねつけてしまうし、その後のフォローもしない。そして、嫌った人間のことは一顧だにしないので、私が気を遣ってしまうほどだ。  そして、理人の言う夫の、妄想の話。  彼は子供たちに、おとぎばなしを語る。ある時はよく知られているおとぎばなし、またある時は、即興で作られたと思われる、聞いたことのないおとぎばなし。もしかしたら、彼の世界ではよく知られたお話だったのかもしれないけど。  その中でも、今回の絵本は、彼がぜひ、と言って、二人で作った手作りの絵本だった。ストーリーを書いたのは彼で、絵を描いたのは私。画用紙に描いた手書きの絵を、小さめの色付きスケッチブックに貼り付けた、そんな簡素な絵本だった。  とにかく夫のおとぎばなしの結末はなぜかいつも、パパとママが出会えてハッピーエンドになるのだ。さすがにそのことに気づいた理人は、最近父親に冷たい。ちょっと前までは泣き虫の甘えん坊だったのだけど、同い年の子たちと遊ぶ時間が増えて、急に男の子っぽく、生意気になってきた。
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