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面識はない。だが国民ならば誰もが知っている。その動向は新聞などでも取り上げられていて、写真も掲載されている有名人だ。
「君というやつは、説明していなかったの? 可哀そうに、顔が固まってしまっているじゃないか」
「昨日の今日で説明できるタイミングを逃していたもので」
夫は仏頂面で答えた。
「そもそも妻を会わせる気もありませんでしたし、殿下はご多忙の身ですから、僕のために時間を取らなくとも結構です」
「何を言う。仲間内でも一番結婚しそうになかった男が結婚したと聞いたら無理してでも会いたくなるし、結婚してから最近は仕事の虫も鳴りを潜めていると聞けば、どんな奥方が手綱を握っているのか知りたくもなるさ」
男は白い歯を見せて私に笑いかけた。
殿下。夫がそう呼んだなら確定だ。彼はエドワード王子。現国王の孫で王位継承権第五位。私にはそうそうお目にかかれない雲の上の人だ。
突き付けられたとんでもない現実に目が眩んでいると、エドワード王子は爽やかさそのものの顔でこう言い放つ。
「まあ、でも普通そうな子かな。昔、アドと付き合っていた何とかという女の方が色気もあったし、美人だったね」
「殿下。過去を掘り返すのはやめていただけますか」
……今、ものすごく失礼なことを言われた気がする。独身女性に夢を与えている王子の高貴な口から聞くに堪えない暴言が。うちの上の姉ですらここまで気を遣えない発言はできないだろう。
夫は冷静そのものの対処をしているが、夫がこうだから夫の友人が朴念仁を通り越してデリカシーのない王様気質なのはどうしようもないかもしれない。だって王子様だからね!
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