橋の上のふたり

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「君が……『春の女神』だったころ。僕は、君が思うよりもずっと早く、君を知っていたから」  アドルファスがそう微笑んだから、私も顔から火が出る気持ちで、シーツに顔をうずめたのだった。  今では彼の言動すべてが蜂蜜のように甘く感じられている。  ちなみに。アドルファスが書いた私への招待カードは無事にジョンの手から返却された。私が出かけた後にゴミを捨てようとポケットをひっくり返した時に、カードに書かれた文面に気付いたらしい。顔面蒼白だったとイザベルから聞かされ、私は思わず吹き出してしまった。ジョンは気の毒なほどしおれていた。悪意があったわけでもないし、結果として悪いことにはならなかったため、私もアドルファスも彼を許すことにした。それから、時々、ポケットの中を真剣に見返すジョンの姿をたびたび目撃することになったのは、彼なりの教訓なのだろう。ジョンの失敗も少しずつ減ってきているところに成長を感じた。  例の招待カードは今も私の机の中に大切に保管し、時々、取り出しては眺める。そうして、アドルファスと結婚してよかった、と幸せを噛みしめる。  アドルファスでなかったら、こんなふうになっていなかったに違いない。私たちだからうまくいっているのだ。 「ただいま」 「おかえりなさい」  ――そうして、今日も「ただいまのちゅう」をして、彼を出迎えるのだ。
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