ハウニーコートの恋

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 知人のサルマン氏は理解できないと言いたげに肩をすくめた。  私と彼は夜会で会えばなんとなく挨拶をする程度の仲だった。出逢いからして、何度も顔を合わせるうちにぽつぽつと話をするようになったというだけの平凡極まりないもの。本人はロマンのロの字も解しないし、結婚や恋愛に対しても懐疑的でいちいち嫌味っぽい。ただ「独りの方がずっと気軽じゃないか」という割に毎回違う女性に声をかけにいくのはどうかと思っている。こういうタイプが年食ってから若い女の子と結婚して鼻の下伸ばしてでれでれするんだよ、と言ってやりたい。  そんな相手だから互いに示し合わせて逢引することは今後も含めて絶対にないと言い切れる。今回の夜会も、私が主役の女性の友人として招かれ、彼は主役の男性の友人として招かれた。顔を合わせたら軽い世間話ぐらいはするけれど、別れても名残惜しさの欠片も感じたことがない。要はいてもいなくてもさして支障のない相手だった。 「馬鹿ではなくて、愛に溢れているんですよ。好きな相手と結婚できたらみんなそうなります。普通のことではないですか?」  彼は私の問いかけには答えず、ただ「また友人に先を越されましたね」と心にくる嫌味をくれた。 「それはあなたもですよ?」  私は負けじと言い返すも、彼は素知らぬ顔で言う。 「僕はそれほど焦っていませんからね」 「そうですか。たしかに男性は女性ほどには結婚に縛られていないでしょうから」  遠目で見た結婚する友人の横顔は幸せに満ち溢れている。だが彼女も半年前までは私と同じ立場で、私以上に焦っていた。
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