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――早く結婚しなくちゃ。親がね、がっかりしているのを見るのがつらいの。同じ年に社交界に出た子たちはみんなもう相手を見つけているのに……。
「女性が独りで生きていくのは難しいですからね。特に経済的に自立する手段がなければ選択することすら叶わない」
「それだけでもありませんよ。家を継ぐ方に嫁いだ場合、子どもを産んで血筋を次代に繋げることが求められています。けれどどうしても女性には子どもを産める時間制限がありますし、色々な事情があって厳しいこともあります。侯爵家に嫁いだ姉は大変そうでした」
友人は家付きの娘だ。私のような三姉妹の末っ子とはまるっきり立場が違い、見えないプレッシャーがあっただろう。そんなつらい状態からは、ひとまずの解放を得たからあんなに溌剌とした笑顔を周囲に振りまけるのだと思う。
「エミリアが幸せになれそうでよかったです。相手のヴィンスもとてもいい人そうで」
「たしかにヴィンは優しいですよ。ちょっと気弱なところはよくないが、女性受けはいいはずです」
なぜこの人はまたも人の評価に泥をつけずにはいられないのか。
彼は私が適当に打った相槌のどこが面白かったのか、喉の奥を鳴らして、くつくつと笑う。
「僕などはあまりに女性の影がなくて、結婚する気もないものだから、ゲイだと勘違いされることがあるのですが、いたってノーマルなのですよ。知らないうちに誤解が広まるのは非常に困る」
「小さな噂は放っておいてもそのうち消えますよ」
意訳。『あなたの噂などどうでもよいです』。
「そのとおり」
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