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1 それはそれは熱い女
俺のクラスで2、3番目に男子人気が高い清涼院エリアスというのはそれはそれは熱い女で、2年生1学期の初日に生徒会長に立候補したかと思えばゴールデンウィーク明けには高校の全教室にエアコンを導入させていた。
あれから学生食堂にドリンクバーを新設させたのも部室棟に冷蔵庫を設置させたのもすべてはエリアスが暑さというものをとことん憎むからで、現在は全生徒に日焼け止めの使用を義務づける校則を作ろうとしている。
熱血漢は歓迎されても暑苦しい女は嫌われるのがこの国の常で、生徒会長を続けるにつれエリアスの周囲からは男子生徒が離れていって今やまともな学生は生徒会そのものに寄り付かないらしい。女友達は元々少ないから問題外だ。
今でもエリアスと一緒に過ごしているのは当然まともでない学生ということになり、具体的には同じ生徒会のメンバー約4名だけだ。
その4名には諸事情あって俺も含まれていて、今はエリアスを含めた5人が生徒会室で定例会議を開いている。
「……そういう訳で、今年から10月の体育祭は午前のみの実施にしたいの。休み時間もグラウンドに残らされてまともに水分補給もできないブラックなイベントなんだから、短縮したって誰も文句は言わないはずよ」
ホワイトボードに文字を書き殴りつつ話し続けるエリアスを眺めつつ、俺は机上に置かれた経口補水液の残量を確認した。8月の酷暑もクーラーが効いた室内では何のそので、経口補水液の消費量も微々たるものだ。今日もこれを家に持ち帰ることになるのだろう。
「あの、確かに体育祭は大変だけど10月ならそんなに暑くないんじゃ……」
「何を言ってるの? 8月や9月の酷暑を乗り越えて少し余裕が出てきたかなって油断している時こそ熱中症のリスクが高まるのよ! 死者が出てから後悔したって遅いわ!!」
「ひえぇ、ごめんなさい」
いつもエリアスに意見して痛い目に遭うのは唯一の3年生である大塚ぽかりさんで、学年で最も男子人気が高いゆるふわ系の女の子だ。3年生の8月といういわゆる天王山な時期なのに生徒会などというものに出ているのは地元の女子大に指定校推薦で入れることがほとんど確定しているからだった。
「まあ、体育祭は運動部員の晴れの舞台ですが無くなっても大して誰も困らない行事ではありますからね。近年では縮小する学校も多いですし、先生方にかけあってみる価値はあるでしょう」
「その通り。この高校を起点として近くの小学校や中学校にもどんどん運動会の縮小を呼びかけるのよ!」
エリアスの意見を現実的な方向に修正するのは2年生の秀才、宝田三斗。市議会議員の息子で、勉強のみならず処世術にも長けている。同じ経営母体でもない小中学校にそんなに影響を与えられるとは思えないが、エリアスが話を大きくするのを見越した上で宝田も発言しているのだろう。
「体育祭を縮小したとして、熱中症対策以外には何かメリットはないのか? なあ塩見」
エリアスの意見は大体が熱中症対策に偏るので、俺は主張内容を補強すべく部屋の隅のパイプ椅子に座って読書をしている塩見来知に意見を聞いた。
「体育祭を土曜日の午後に設定すれば、運動部はその日に試合を入れられる」
塩見はいつも無表情で話すがその意見はどれも有用性が高い。
「それはいいアイディア! 体育祭縮小は運動部のためにもなるって主張なら体育会系が大好きな脳筋教師どもを黙らせられるわ。流石はライチね」
それからエリアスは猛スピードで生徒会の意見書をまとめ、それを夏休み中に校長へと提出することに決めて定例会議は終了した。
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