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話の流れから、金を払って女と会話が楽しめる店を紹介してきそうであるが、井伏の見たところユキは女に対しまるで関心を持ってない。
では同性愛者なのか、と言われたらそれもまた違う様子だ。
珍しいことに、ユキは如何なる種類の性にも興味がないらしいのだ。
そんなユキが性的な欲求を満たす類いの店を紹介してくるとは考えにくい。
ではどこへ誘おうとしているか?
「ジャズ喫茶だよ」
井伏の腹の中を覗いたかのようなタイミングでユキが言った。
「ジャズ喫茶?」
井伏がおうむ返しすると、ユキは頷いた。
「ぼくはね、ジャズが好きなんだ。特にジャズ喫茶の高級スピーカーで聴くのが堪らない」
「ふーん」
うっとりしながら語るユキに対し、井伏の反応は薄い。音楽が嫌いなわけではないが、特に好きでもなく、友人とカラオケへ行った際レパートリーに困らない程度に覚えておけばいいという認識しかないのだ。
「まぁ、キミは知らないだろうがジャズ喫茶ってのはあまり儲からない。だから、ぼくは部署に新人がくるたび連れて行き、少しでも売り上げに貢献して店が潰れないようしてるのさ」
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