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給食のあとの昼休み。
長めの休み時間は、もちろんクラスのみんなでドッジボールだ。
かなり前から、わたしと早智は、外側ばかり。
コントロールが悪くて、それて遠くに飛んでいったボールを、拾いに走る。
今日もわたしは、飛びだしたボールを追いかけた。
コートのところまでボールを持って戻ってくると、コートの中で中央の線ぎりぎりのところに立った流星が、両手をあげて叫ぶ。
「日咲! オレのほうに投げろ! 絶対、敵の陣地へ落とすなよ!」
流星、プレッシャーをかけないでよ。
そんな心の声は、当然口にだせない。
わたしは右手でボールを持ち、フラフラとした体勢で振りかぶる。
――けれど。
わたしは、投げるモーションをやめて、両手でボールを持ち直す。
「日咲! なにやってんだ。はやく、こっちに投げろって!」
そう叫んだ流星を、真面目な顔でじっと見据える。
そして、左手に持ち直して、振りかぶった。
両手を広げ、まっすぐ見つめる流星めがけて、左手を振りおろす。
自然と右足が前に出て、考える間もなく地面をしっかり踏みしめている。
わたしのボールは、一直線に、流星の手のひらにおさまった。
ぱぁん! と、いい音が響く。
「あ」
わたしの口から、思わず声がこぼれた瞬間。
「なんだよ、日咲! おまえ、左利きかよ? サウスポーか? かっけーじゃねーか! なんでいままで黙ってたんだよ!」
流星が、目を輝かせて叫んだ。
早智も、驚いたように寄ってくる。
「すごい。日咲、コントロールばっちりじゃない」
「えへへ……」
否定をされない、ほめ言葉をもらえて、わたしは思わず笑みをこぼす。
なんだ。
気にしていたのは、自分だけだったんだ。
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