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彼女は終わりをもたらす者
その巫女は、とある山奥にある訪れる人もほとんどない寂れた神社にひとり暮らしていた。
いかなる神に仕えるのかようとして知れないが、そのお役目ははるか昔にこの世見かけられたとある呪いを一身に受けることらしい。
その身に受けた呪い故に、彼女は見た目通りの年齢ではないそうだ。
その日、山の麓に住むとある老婆がこの世を去った。
巫女の住む神社に参拝していた数少ないものの一人だ。
その知らせを聞いた巫女はこう呟いた。
「あなたの終わりが良きものでありましたように」
巫女の受けたる呪いは永遠。
彼女がその呪いを一身に引き受けることで、この世のあらゆるものに終わりが訪れる。
その代償として彼女は永遠の生の苦しみの中を生き続けるのだ。
そのお役目故に彼女は無数の終わりを見てきた。
今もまた一つの終わりを目にすることになる。
「ああ、玉ちゃん~」
それは今季イチオシアニメ「お料理研究部!」の最終回だった。
玉ちゃんとはそのアニメの主人公で、高校生の少女の名前だ。
不器用で料理下手だが料理人に憧れる彼女は、廃部寸前の料理研究部を立て直すため奔走し、仲間を集め、料理の腕を磨いていく。
その成長していくさまを巫女はまるで自分のことのように熱心に見入っていたのだ。
最終回はその成長ぶりを存分に発揮した文化祭への出店。
祭の終わりとともに湧き上がる喪失感を感じつつも、玉ちゃんたちは新たな目標を夕日の沈みゆくあかね空に近い、物語は幕を閉じたのだった。
巫女の受けたる呪いにより、この物語もまた世の理通り正しく終りを迎えた。
だがその喪失感が巫女を苛む。
テレビの前で座布団を抱え込み悲嘆に暮れる巫女。
だが意を決したように目を開き立ち上がる。
「原作ポチろっと」
巫女はパソコンの前に座ると某有名通販サイトを開いた。
翌日、麓の宅配ボックスにお料理研究部!の原作コミック既刊12巻セットが届く。
再び玉ちゃんたちに会えることに胸を躍らせる巫女。
だが巫女はまだ知らない。
お料理研究部!はつい先月連載を終了し、次の13巻で完結となることを。
これもまた、巫女が呪いを受けることで世の理を正しく成さしめた結果なのである。
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