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激 情
俺はサボテン育てるんが苦手や。
水やりの頻度が少なてええから育てるんは簡単やいうけど、頻度が少ないってことは毎日世話せんでもええってことで、そうなると途端に水不足で枯らしてしまう。
100均でよう見かける小さなミニサボテンも、お洒落な奴が育ててたから真似して育ててみたけど結局あかんかって、どれも例外なく枯らしてきた。
水が欲しいいうて訴えてくれへんと、俺は気付くことが出来ひん。
そうやって気付かへんうちにいつの間にか枯れるんやから、サボテンってやつは難しい。
刺刺して誰にも触れさせへんように棒立ちするそれが、机上で揺れてんの見たんは、もう何年前のことやったやろか──。
「ッ……せんせっ──先生、好きっ……すき──っ」
栗色の柔らかな髪が揺れている。
透き通るほど白く艶やかな脚が、蛍光灯に照らされて眩しかった。
淡いグレーのtシャツが、回転椅子に座ったまま正対する男の手によってたくし上げられると、すらりと伸びる背骨の窪みが露わになる。
その下の、剥き出しの臀部が上下に舞う度、甘ったるくて下腹部が疼くような、でも女のそれより遥かに低い鳴き声が、嫌でも耳目を惹きつけた。
「っンァッ……っアァッ……ッ! あァッ! せんせ──」
「声っ……抑えろて、湯浅──」
「ンッ……っ……! んンッ……ッぅ──!」
脇の下が汗でじっとりと湿り始める。
硬直した体は、扉の隙間から覗き込む前傾姿勢を保ったまま、一歩も動かれへんかった。
我ながら間抜けや。
まさか、水理学研究室からそんな声が聞こえてくるなんて微塵も思てへんかったから、危うく扉を全開にするとこやった。
先生、先生と譫言のように喘ぐその声と共に、強弱をつけて生み出される律動が伝播し、机上のサボテンが虚しく揺れ続けとる。
その様子を、手に持ったビニール袋が擦れて音立てへんよう、じっと息を潜めて見つめる俺がいた。
こっちからやと、角度的に若い学生の顔を視認することは出来ひん。
せやけど──
湯浅。
その名を聞き流すことが出来ひんかった。
湯浅を名乗る人物は、残念ながらこの学校に1人しかおらへん。
湯浅──。
それは紛れもなく、この手元にぶら下がっとる差し入れを受け取るべき、俺の──
俺の、幼馴染みの名前やった。
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