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あいつと出会った頃のことは記憶してへん。
そんだけ小さい時からの付き合いやった。
家が近所の俺たちは、物心ついた時から友達やった。
保育園も小学校も、中学校もずっと一緒。
あいつには双子の弟がいて、2人とも女みたいに綺麗な顔をしとったから、近所では評判の兄弟やった。
同じ兄弟でも性格はまるで違ってて、弟の望はいっつも冗談ばっかり言うては笑う陽気な奴やった。
それでいて勉強もスポーツもそつなくこなす。
嫌味なく軽々と凡人の努力を無にしていくその姿を前に、次元の違う世界で生きてる奴なんやと子供ながらに感じとった。
一方で、同じ兄弟でも湯浅は違った。
くそ真面目で責任感が強うて、いかにも長男気質というか、お調子者で泣き虫やった弟の面倒をようみとった。
──望、前見て歩かなあかんていっつも言われてるやろ?
──っ分かってるけど、転けたもんはしゃーないやんかっ……。
──消毒とバンソーコ貼ったるし、そこで待っとき。
兄弟で同じ見た目してんのに、女子にモテるんはいっつも華やかな望の方。
湯浅はというと、小学校の間は望と引けを取らんくらい利発で目立ってたのに、中学生になる頃には徐々に控えめな性格になっていって、終いにはまるで望の影に徹してるみたいやった。
何があったんか、側におった俺でもよう分からへん。
思春期の頃って、自分自身も尖った考え方してたし、湯浅が口数少ななったんも、その影響やくらいにしか思てへんかった。
少なくても、俺の前ではよう笑てたし、悔しがったり怒ったり、素のあいつを見せてくれてたからや。
幼馴染みやからっていうんもあるかもせんけど、奴との関係を一言で表すなら、親友っていう言葉が一番しっくりきたかもしれん。
いっつも直向きに努力する姿を知ってたから、あいつが他人から評価されると、俺まで嬉して誇らしい気持ちになった。
中学校を卒業したらどこへ進学したいかって話になった時、湯浅は迷わず高専と答えた。
前から決めてたんかもしれんけど、どっか毅然とした態度で言い放つその姿に、冷たさすら感じたことを今でも覚えてる。
──家出て自立したいねん。経済的にはまだ無理やけど、せめて環境だけでも。
その言葉が、当時の俺にはめちゃめちゃ大人びて聞こえて、かっこいい。俺もそうなりたいってアホみたいに感化されて。
せやから、あいつと同じ高専に行けることになった時、ほんまに嬉して、その年で親から離れて暮らすなんて、もうそれだけで一人前になれたような気さえしとった。
今思たら、未熟過ぎて笑てまうわ。
喜び勇んで始まった高専での生活は、平凡な田舎暮らしではあったけど、沢山の友達と集団生活するなんて経験なかったから、なかなか刺激的で楽しい毎日やった。
まあ、女子が少なかったことは除くけど。
望がいいひん環境やと、湯浅は異性にようモテる。
年下の子等からはプリンスなんてあだ名を付けられてて、側を通り過ぎる度、甲高い声が上がってた。
その中にはモデルみたいに綺麗な子もおって、正直羨まして仕方なかったけど、当の本人はまるで恋愛には興味ないんか、周囲の連中に揶揄われて困ってた記憶しかない。
勉強も、これまでの努力が身を結んでか、いっつも成績上位者やったし、何より優しい性格やったから、隣にいる俺に劣等感すら抱かせへんくらい、あいつはほんまにようデキた奴やった。
──高専卒業したら、どこ就職したい?
──官公庁かなあ……とりあえず地元以外で就職したい。
──なんで? 地元の方が土地勘あんのに。
素朴な問いに、奴が少し困った顔で微笑うんが印象的やった。
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