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今日僕は会社を休んだ。
昨日急遽、有給休暇を取ったのだ。
早起きし、朝から布団をベランダに干し、折り畳みベッドを畳み、古いアパートの1Kの狭い部屋を少しでも広く見せる。
掃除機をかけるのは8時半になってから、と思い、それまではトイレやキッチンなど、音が響きそうにないところから片づける。
僕、佐鳴明26歳、会社員(エンジニア)、彼女なし。
今日は僕ににとって、人生最大のチャンスともピンチとも言えるだろう。
密かに恋心を抱いている、同じ会社の総務課の山野舞花さんが朝10時に僕の部屋へやってくる予定なのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「誰か、九条くんが出ているドラマを最初から先週の分まで録画をしている方、いませんか?」
昨日昼休み、山野さんはわざわざシステム課にまで足を運んできた。
しかし、昼休みの為フロアに残っている社員はごくわずか…。
「九条くんって…九条輝主演の『君の瞳に映る星を数えたい』?」
「あー、ごめん。観ているけどその都度消しちゃっているなぁ」
「今から観るの?先週が3話目だっけ?あれ、明日放送だよね」
システム内での視聴率は高そうだが、皆彼女の要望には応えられないようだ。
「あの…僕、1話目から録画していますよ」
僕は手に汗を握りながら、勇気を持って挙手した。
「佐鳴さん、本当ですか!?」
山野さんはとびきり可愛い笑顔をこちらに向けた。
か、可愛い!
その可愛い笑顔のまま山野さんが僕のデスクに向かって歩いてきた。
「あの…どうしても明日中には観たいんです。でも私のDVDレコーダーが壊れてしまって、それで録画していた先週までの分も観れなくなって…」
山野さんが椅子に座る僕に近づくように、身をかがめた。
「佐鳴さんのおうちで観せていただくことは出来ますか?」
頬を赤らめ、可愛い小さな声で悪魔のようなささやきをする山野さん。
「えっ…ぼ、ぼ、僕の家で!?」
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