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「アビー、明日はいよいよ入学式だな」
ウエスト男爵は夕食の席で娘のアビゲイル、通称アビーに話し掛けた。
「ええ、そうよ。制服もなんとか仕上がってきて良かったわ」
アビーはパンに手を出しながら答える。バターはごく薄く塗って。本当はたっぷり塗りたいところだけれど。
「この子ったら今年また背が伸びたから、制服の採寸がギリギリになってしまったのよ」
母はそう言いながら小さく切った肉を優雅に口に運んだ。
「どうせ一年も経ったらまた丈が短くなるって」
兄のマイクが愉快そうに笑うのでアビーは脚を伸ばして向こう脛を蹴ってやった。あまり大きくないウエスト家のダイニングテーブルだからこそできる攻撃である。
「いてっ」
「不吉なこと言うのやめてくれる? もうこれ以上、身長なんて伸びなくていいんだから」
アビーは兄に向ってしかめ面をしてからパンを思い切りかじった。
「アビーったら、もっと優雅に食べなさい。そんなお行儀では家庭教師になんてなれないわよ」
「大丈夫。ちゃんと、やる時はやるから」
ツンとすました顔でそのあとは完璧な行儀で夕食を終えたアビーだった。
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