その時少女は何を願うか

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仲が良かったあの子が自殺した。 それは、唐突な言葉による訃報(ふほう)だった。 教えてくれたのは同じクラスメイトのヤツだった。普段は明るくて、よく周りに通るような声で、その陽気で優しい性格を持っているからいつも輪の中心にいるような彼だったが、今日のその声は随分と枯れていて、震えていた。 ヤケに五月蝿い(うるさい)カラスの鳴き声と、幻想的な夕日の日差しで、まるで世界が破滅に向かっているように錯覚した。 まるで漫画みたいな出来事だった。小説だったらこれ以上ないという程の定番ネタみたいなものだろうか? ただ、お生憎様(おあいにくさま)こちらとしては最悪な出来事だった。 電車内では、落ち着きがないように身体が動いていても、その反面頭の奥は冷静になっていた自分におかしさと不気味さを感じた。 帰りの自転車で、漕ぐスピードをいつもの二倍ぐらい上げる。途中道路から出てきた軽自動車と危うくぶつかりかけたが、そんなことは気にしてられない。 家に着き、扉を勢いよく開ける。急いでリビングに行くとそこには、学校の先生と連絡をとっていると思われる、母の姿があった。 その後母から聞いた話によると、どうやら昨日の夜、学校に忍び込んで屋上から飛び降りて死んでいたらしい。 嘘だ、なんて思いが頭の中で大きくなっていって、まるで自分の身体と意識が 離れてしまったようだった。 仲の良かったアイツは、高校に入ってから勉強であまり話せないでいた。 最後に話したスマホのメッセージもかなり古いものだ。最後に話した会話は中学校の時の卒業式前日の話で、『遂に明日で卒業かー、』『意外と早かったねー。』などと他愛(たあい)のない会話で埋もれていた。 試しにLINEでメールを送ってみる。 「なぁ」 「今いるか?」 流石(さすが)にそんな一瞬で既読(きどく)がつくようなことはあり得ないので、大人達がワタワタしている間ずっとぼけーっとしていた。 その後、夕方から深夜になるまで経っても既読はつかなかった。 いや、そんなハズない。明日だって恐らく、違うクラスの所で笑顔でいるハズ。 そうだ。アイツは笑顔が似合うんだ。若干茶髪が混じった黒髪のボブカットの髪型をしたアイツには。 だから俺は今日はひとまず寝て、明日普通に学校に登校しようと思っていた。 朝起きて、すぐに支度(したく)を済ませ、牛乳を一気飲みし、パンを(くわ)えながら、足早に家を出る。 開門時間は七時。その日は朝早くから電車を使わず自転車で学校へ向かった。アイツと一緒に登下校した日々を思い出し、その度に横隔膜(おうかくまく)が刺激されているような感覚がした。 学校に着き、時刻を確認する。現在は八時手前辺りの時間で、いつもだったらアイツはもういるハズの時間帯だったと思う。 教室に入り荷物の整理をし、廊下へ出る。 アイツのクラスは1ーC。俺のクラスは1ーAだから、二個隣のハズ…… そういえば、俺はこっちのクラスに来たことがほとんどなかった。 休み時間もほとんど勉強に費やしていて、最初の一ヶ月ぐらいしか見れてなかった。 そして俺は1ーCの看板がある教室の前に踏み止まった。 大丈夫だ。アイツが死んだ、まして自殺なんて、そんなことあるハズがない。たちの悪い嘘なハズだ。そう思い、ゆっくりとその教室の扉を開ける。 するとそこには、俺が予想もしていないような光景があった。 アイツが使っていたハズの机と椅子は、明らかにヤンキーとギャルっぽい奴らの椅子代わりに使われていて、そして机の上には、花瓶が添えられていた。
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