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「よく見ないと気づけないようになっているが、制御部分が花火と打ち上げ台を接続しないように書き換えられている。自然にそうなったとは考えにくい異常だ」
「それって、まさか嫌がらせ……」
考えたくなかった可能性をロンさんが代表で口にした。
この大会で優勝すれば、王室お抱えの花火師となれる。花火が重要な産業であるこの国では、とてもとても重要なイベントなんだ。
師匠が大会に参加するとなれば、それだけ周りの優勝の可能性は低くなる。隣国へ花火を広めた花火師であり、今は事実上引退しているという有名人。それが師匠。
「奥の部品を取り替えれば何とかなりそうだ」
「わ、わたし、工房へ取りに戻ります!」
「おいっ、待てよ!」
ロンさんの制止よりも早く走り出す。全速力で往復すれば間に合うはずだ。
師匠の復活の舞台を穢す訳にはいかない。
それに、見物客だって師匠の花火を楽しみにしているはずなのだ。
もちろん、誰かが嫉妬から打ち上げ台を壊したという確証はない。だけどわたしは人間の心に醜い部分があることも、それを御せない人間がいることもよーく知っている。
正しくあろうとすればするほど、他人の汚い感情に引きずり落されてしまうことだって、ある。
師匠をそんな目に遭わせたくなかった。
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