第三話 花火大会

4/10
前へ
/25ページ
次へ
 息を殺してしばらく眺めていたけれど、ロンさんに肩をつつかれて工房の外へ出る。  まだ、どきどきしている。  師匠が。花火を。  どうしよう。うれしい。師匠の花火が、観られる……! 「っはー!」  ロンさんが大げさに深呼吸をして、へなへなとしゃがみ込んだ。  それから、顔を上げずに、言った。 「お前、すごいよ。俺じゃできなかったことをやってのけた」 ***  あっという間に花火大会の当日を迎えた。  国じゅうの花火師が一堂に会する様子はなかなかで、わたしは見事に浮いていた。じろじろと向けられる好奇のまなざしは、女の花火師が異質であることを否応なしに伝えてくる。  ばしっ、とロンさんが背中を叩いてきた。 「いったーっ! 何するんですか!」 「お前のことなんか誰も見ていねぇっつーの。師匠が復帰したから注目されてるんだよ」 「はっ。どうしてわたしの考えてることが分かったんですか」 「顔に書いてある」  ロンさんと視線が合う。  ふしぎだ。最初の頃は、すっごく犬猿の仲だったというのに、今はこうして気にかけてもらっている。 「俺たちができるのは、堂々とすることだけだ」 「そうですね」  大きく頷いて応える。  わたしがびびっていたら、師匠の評価だって下がってしまう。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加