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息が切れる。肩が上下に揺れる。
工房まではまだまだ距離がある。
「あら、どうしたの?」
突然明るい声が空から降ってきた。
サマンサさんだ。周りに人がいないからか、竹箒に乗って空を飛んでいる。
サマンサさんが魔女であることを知っているのは代償を払って契約している人間だけ。つまり、師匠もロンさんも、サマンサさんの正体を知らない。
「今日は花火大会でしょう。こんなところにいていいの?」
「打ち上げ台が壊されてて、部品を取りに戻ってるんです」
「へぇ?」
サマンサさんはわたしと並走するように空を飛ぶ。
スピードも、わたしに合わせてくれていた。
「助けてあげましょうか?」
わたしの深刻さとは対照的に、サマンサさんが楽しそうに提案してきた。
「打ち上げ台を修復するくらいなら、そんな大きな代償は要らないわよ♪」
「……」
そもそも工房へ部品を取りに戻って開場まで戻れたとしても、修理に時間がかかるんじゃなぁい?」
心が揺らぐ。
サマンサさんに言えば、さらに代償をプラスすることによって、故障が人為的なものなのかどうか教えてくれるかもしれない。
『前世を絶対に打ち明けてはならない』というのが、師匠に弟子入りするために払ったわたしの代償。
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