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今さらひとつふたつ増えたってどうってことは、ない。
「アタシだって、アズマの花火は観たいもの」
……だけど。
……でも。
ごくり、とつばを飲み込む。
「いえ、大丈夫です。間に合わせてみせます」
わたしははっきりと口にしていた。
「あら、そう? 残念ね」
サマンサさんはあっさりと引き下がった。
「頑張ってちょうだい。必ず、アズマの花火を空へ咲かせてね♪」
そのまま空高く飛び去ってしまう。
同時に、わたしは工房へと戻ってきた。
裏側へ回り込んで打ち上げ台を覗き込む。師匠が示していた部品を確認して、腕を突っ込んだ。
手の中に滑り落ちたことを感触で確かめて立ち上がる。
「よし、……っ!」
気合を入れ直して、わたしは走ってきた道へと駆け出す。
***
夜空に咲くのは、ロンさんの花火。
黄色の小さな花がたくさん。迫力はなくても繊細。そして、黄色が消える頃に、赤や青、いろんな色がきらきらと煌めく。
「本人の性格とは真逆の作品ですね」
「あぁ? 何か言ったか?」
次は、わたしの番だ。
『光よ、光。空を彩る花を咲かせよ!』
打ち上がるのは、最初に作ったのと同じ、赤い花。だけどできる限り大きく咲くように工夫した。蕾から、大きく花開くようにと。
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