あの日海岸で凍えながら語り合った君へ

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 自宅から徒歩十分、自転車で五分の場所にある地元の海が俺は大好きだった。  子供の頃は夏になれば家族でよく海水浴に来た。夏以外では散歩したりサッカーボールで遊んだ。姉が小学校高学年になる頃には、砂で汚れたり友達に見られるのを嫌がるようになり、家族では来なくなった。  中学の時はサッカー部の仲間と夏は海水浴、それ以外の季節はただふざけるために遊びに来ていた。高校で帰宅部だった俺は、放課後、塾に行くまでの間一人で時間をつぶした。友達は多い方だったが、その頃にはこの海が好きという奴は一人もいなかった。  大学に合格した年の春、家族でハワイへ行った。透き通った海水に驚いた。浅瀬には小さな魚が泳いでいて、あれだけ観光客がいながら砂浜にはゴミほとんど落ちていなくて、目に映る何もかもが美しかった。家族は絶対また行こうと言っていたが、俺はもう一度行きたいとは思わなかった。  海水の透明度や砂浜の衛生状態ではなく、いつもただそこにいてくれた、親友のようなこの海の方が俺は好きだった。
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