あの日海岸で凍えながら語り合った君へ

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 直ぐ側にあった干からびた昆布を手にとる。砂浜に「ヒロト」と自分の名前を書く。隣に「ミサキ」と書いたが砂をかけて直ぐに消した。自分のやってることが青臭くて恥ずかしくなり、苦笑しながら昆布を放り投げた。  リュックから数学の問題集を出す。風がページをめくるのを防ぐ為に、ペンケースの中に入れてあるプラスチックの大きめのクリップ出して止めた。  ふと、視線を問題集から海へ移すと、堤防の上に佇む女の子が居た。平日の昼過ぎにこんなところに居るのは、十中八九大学生か専門学生だろう。どんな子かは遠目では分からないが、今日は予習をしなければならず、話かける予定ではなかったから、興味を持つことを止めた。  数分後、それにしても……と、気になって見てしまった。羽織っているピンクと白のボーダーの上着はおそらく毛糸のカーディガンだろう。下は短めのフレアスカートに膝丈のレギンスを穿いている。ビュービューと風が吹いてるのに、あんなところに立ってたら寒いんじゃないか。しばらくするとその子は、堤防の先端から反対方向にあるJRの駅の方へ歩きだした。少しだけ海を見たら気が済んで電車に乗って帰るパターンか。視線を問題集へ移した。  クリップを外し次のページをめくる時に又視線を海へ戻すと、彼女は先端へ引き返していた。そして、右足を浮かせ、靴を海に放り込むようにプラプラさせた。    ………!?  ──な、何をするんだよっ!  問題集をリュックにしまい、俺は慌てて走り出した。
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