第一話 死ぬときの気持ち

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第一話 死ぬときの気持ち

 静かに降り続く雪を見上げ、両腕を広げて全身で受け止める。  頭や肩に積もるそれを払いのけずにいると、冷たさで死ねるだろうか。  死の淵に立たされた人の気持ちを理解できるだろうか。夜の中で闇に連れ去られるだろうか。  死の影を知りたい。そのときの気持ちを体験したい。  人は自分の死期を悟った瞬間、恐怖以外の感情が湧いてくるだろうか――。  死ぬ瞬間のことを想像しながら、静かに雪の降る中、氷室(ひむろ)武彦(たけひこ)はひとりで立っていた。 「氷室クン、何をしてるの。そんな薄着で雪の中にいたら風邪をひくでしょ!」  怒鳴り声と同時に背後から傘をさしかけられた。ふりむくと水無瀬(みなせ)ゆきが口を真一文字に結んでにらんでいる。 「す、すみません」  ひとまわり上の大女優に叱られ、武彦は咄嗟(とっさ)に頭を下げる。 「謝っている場合じゃないでしょっ」  顔を上げる間もなくゆきに腕をつかまれ、武彦は山荘の談話室に引っ張り込まれた。  半ば押しつけられるように渡されたタオルで、髪に残った雪を拭き取る。
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