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「あの?」
女性が首をかしげる。
「あ、すみません。あの、その、スマホ見えちゃって。その子って……」
「息子です」
美奈代は、ほっとした。
会えなかった、とか、雨の日だから、とか、まるで、お母さんに捨てられたかのような言い方だったのが、引っかかっていた。
優しそうなお母さんでよかった。
「そうだったんですね。息子さん、探していましたよ。さっき、お母さんだって走って行って……」
美奈代はもう一度あたりを見回す。
男の子は近くにいないようだ。
「……会えました?」
美奈代が言うと、女性は目を丸くして驚いている。
「会ったんですか?息子と」
「え?えぇ、さっき……」
美奈代はそう言いかけて、まさか、と思った。
柱に向けられた花に視線を動かす。
まさか。
でも。
ちゃんとこの手で、あの子の手を引いて、ここまで。
美奈代が言葉に詰まっていると、女性は寂しそうに笑う。
「どんな、様子でしたか?」
「え?」
「会いたいけれど、まだ私には会いに来てくれてないんです」
「……雨が降っているって、嬉しそうに笑ってました。今日は雨が降っているからお母さんが来ると思うって言っていました」
女性は、唇を小さく噛み、絞るように声を出す。
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