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今日は、雨。
雨だと安心する。
みんな傘を差しているから。
美奈代は、揺れている電車の中、流れるいつもの景色を見ていた。
ずっと同じ毎日で、きっとこれからも、変わらない毎日。
逃げたい日のほうが多いけれど、逃げるほうが面倒くさくて。
だから、美奈代の毎日はきっと変わらない。
「あのぅ」
小さい声を耳の奥に感じた。
どこかの誰かが、誰かに声をかけているのだろう。
「すみません」
美奈代のカバンがとんとんと小さく叩かれた。
美奈代は、その方向へ顔を向ける。
小さい声はどうやら美奈代にかけている声だったようだ。
仕事帰りの人が多いこの時間の満員電車の中、その男の子は握り棒にしがみついていた。
「あの、今、何時ですか?」
「え?あ、えーと、7時15分……です」
美奈代は、今どきなのに携帯もっていないのかなと思いつつも答える。
「えっ!15分……」
男の子は驚いたかのように目を開くと、途端に不安そうに眉を下げる。
「大丈夫?どこかに行くの?」
子供は苦手だ。だけど、ここで無視をするほど、大人げないわけではない。
なんせ社会人になって15年なにも変化がない毎日を、ただ淡々と生きているのだ。少しのハプニングぐらい、回避できる。
「えっと……家に変える途中、といえば途中です」
男の子は少しうつむいて答える。
少しあやふやに答える男の子を見て、美奈代は、あまり深く聞くのもなと思い、「そう」とだけ言って、また窓へ目を移す。
「あの」
また男の子が美奈代を突っつく。
「次で降りたいんですが、あとどのくらいで次の駅につきますか」
なぜこんなにたくさん人がいるのに私に声をかけるのだろう、と思いつつも、「これ特急だから、次の駅までは……5分くらいかな」と答える。
「5分か……」
男の子は外を見る。
それから少ししても男の子は外の景色に夢中のようだった。
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