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エビローグ
フワフワとした足場は未だに慣れない。どうして雲と言うものは歩き難いのだろう。
雲の隙間から地上を見ると、通学路を走る女の子が目に入る。
「あらら。茉李ってばこりゃ遅刻確定だね~」
うつ伏せに寝そべり頬杖をついてその様子を楽しむ。何の娯楽も無い空の世界。誰よ?天国良いとこ一度はおいでなんて言った人は?
「あ!翔也だ!」
翔也はゆっくりと歩く。その隣には井沢さんが並んで歩いていた。
「仲いいなぁ。遅刻だけど」
私が事故で他界してから三ヶ月。悲しみに暮れていた家族は立ち直り始めていた。泣き暮らす翔也を支えたのは井沢さんだった。
今なら彼女に翔也を任せてもいいかなと思う。
「お似合いだよ。お兄ちゃん」
ふふっと笑い、私は立ちあがり背中を伸ばす。空気が美味しい。
鐘の音が聞こえる。そろそろ時間だ。
最後にもう一度だけ、寄り添う二人を見てから大きく開かれた門へと足を進めた。
もう大好きな人には会えないけど、いつまでも見守ってるからね。
完
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