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「美羅~!まだか!?先に行くぞ!?」
「待って待って!もう終わる!」
真夏日の今日。夏休み間近となった心躍る木曜日。洗面台で髪をセットする私を兄の翔也が急かす。翔也は六月生まれの十八歳、高校三年生。私は四月生まれの十七歳、高校二年生。
この不自然な年齢には理由がある。それは私が養子だからだ。
私は五歳の時、施設からこの森沢家に引き取られた。両親は私を翔也と分け隔てなく愛してくれたし、兄の翔也も可愛がってくれる。
私を産んだ本当の母親の事を忘れるほど幸せな毎日だ。
ただ、幸せと共に抑えきれない感情も芽生えていた。それは──。
「美羅~!もう行くからな!」
「ああ!待ってってば!」
玄関の閉まる音を聞き、慌てて翔也の後を追う。
「待ってって言ったのに。お兄ちゃんの意地悪」
「いつまでも髪の毛いじってるお前が悪い」
「はあ?髪のセットの重要さを理解できないなんて」
プッと笑ってみせると翔也はムッとした。
「何だよ?」
「彼女なんか出来ないよ?」
「余計なお世話だ」
そっぽを向く翔也は面白くないって顔をした。学校ではアニメオタクの癖にクールキャラで通しているコイツがこんな顔を見せるのは私の前だけ。ちょっとした優越感だ。
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