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終の棲家?
「これが新しい我が家だ」
目の前にある和風の建築物。俺が格安で手に入れた物件だ。随分と古い印象を受け、決してリッチな外観ではない。だが、廃墟同然にボロいわけでも、小さいわけでもない。妻と二人で住むのに充分な家といえるだろう。
そんな家を、なぜ、格安で手に入れることができたのか。
それは、ここが田舎だからだ。
周りを見てみよう。家がぽつり、ぽつり。各家の周りには田んぼや畑。典型的な田園風景だ。さすがに、ここまでの田舎だと、車が無ければまともな生活はできないだろう。だからか、家の多くに車がある。車が無い家は、おそらくお出かけ中だろう。車だけではなく、トラクター等も見かける。
近くに施設があまりなく、不便な所なようだ。だからか、安い値段で売られていた。だが、それでも家を売った人は、買い手がついて喜んでいたらしい。
では、なぜ、不便そうな田舎の家を買ったのか。
それは、俺も妻も田舎暮らしに憧れていたからだ。よく旅番組等で田舎暮らしの様子を紹介することがある。あの緑に囲まれながら美味しそうな農作物を育てては調理して食べている様子を見ていると、俺達もやってみたくなったのだ。
都会の便利さは捨てがたいのだが、あの喧騒や列車の混雑っぷりは、俺にとってちょっとしたストレスだった。
だが、俺には会社勤めがあり、しかも管理職だった。だから、おいそれと脱サラするわけにはいかなかった。
けれども、ついこの間、定年退職した。
息子と娘は、俺達の元を離れ、今や家庭を築き上げている。大変そうではあるが、上手くやっているようだ。
利便性を犠牲にしてでも、のんびりとした所で暮らしたいという気持ちは、妻も同じ。
もはや都会にいる理由はない。
だから、妻と共にここに来た。
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