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地球に降り立ったのが一週間前の昼間。都会の片隅にある小さな神社の境内だった。衛星軌道上の宇宙船からどろーりと一筋の液状の体を降ろす。アントニーの正体は粘菌の宇宙人だ。
誰にも気付かれることなく地球に降り立ち、すかさずぐにゃぐにゃと人間の形に擬態する。宇宙船からずっと観察していたから完璧だ。
俺の手法はいつも通り。原住生物の姿を模して、内部から蚕食していく。一人ずつ食べながら倍々ゲーム。一人が二人、二人が四人。やがては全てが“俺”になる。
さあ人混みに紛れて侵略だ。颯爽と歩きだそうとした瞬間、何かを踏んだ。
ぐにょ。
「ん?」
足下を見ると、足が三本生えたカラスを踏んでいた。
「なんだこのカラス」
おかしいぞ。カラスは二本足だ。奇形の類だろうか? まじまじと見ていると、カラスがキッと睨んできた。
「貴様! 神の御遣いたる私を踏みつけるとは罰当たり!」
「何だ、貴様。しゃべれるのか。私の地球侵略には邪魔な存在だ」
げしっと蹴飛ばし、カラスはぎゃんと小さく悲鳴を上げた。
「おのれ毛唐め、神をも恐れぬとは。貴様には呪いをかけてやる。貴様の望みは決して叶わぬぞ……」
呟いて事切れた。何の事か分からないが、余計な時間を取ってしまった。早く仕事に掛からなければ。
人混みへと歩き出す。
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