グッド・バイ

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 ある時、これもまだ高校生の頃の話だ。三年生の冬に近い時期だったと覚えている。  長者(ちょうじゃ)という名前の話し相手が私にはいた。友人ということもできるが、私たちの間にあるのは利害(りがい)であり、体育の時間のペアだったり、休み時間を(つぶ)す相手だったりであり、学校という環境(かんきょう)から解放(かいほう)された瞬間、他人になってしまうような間柄(あいだがら)であり、やはり友人とは言いづらかった。  長者から「私たちは友人だ」と言われたなら、私もそれを(みと)めただろうが、(たが)いにそんなことを確認するような人間でもなかった。  休み時間を潰す仲というが、(つくえ)(はさ)んで向かいあってるだけでお互い別のことをしていた。私は読書をして、彼はスマートフォンでゲームをしていた。  そんな長者がその日、(めずら)しく放課後私に付き添った。彼の家は私の家と同じ方角であったが、私よりはるかに遠いところにあった。彼は電車通学だった。  長者は「君の最寄駅から帰ればいい。だから、少し話しながら帰らないか?」と私を(さそ)ってきたのだった。  私は断る材料を持っていなかったため、それに(おう)じた。彼と並んで帰路(きろ)を進む。  長者という男は名前とは裏腹(うらはら)にクラスの中では背の低い男であった。それでいて、肩の落ちた猫背(ねこぜ)であり、ポッケに手を入れて隣をあるく彼は、どこか見栄(みえ)を張ってる不良気取りの子供のように見えた。 「なぁ、君は死ぬならいつ死にたい?」  学校周辺では、まだ下校中の生徒の()れが作られており私たちの声が聞こえる距離にも女子学生の集団がいた。それでも、気にせず彼はそんな切り口で会話を始めた。 「そんなこと、あまり考えたことないね。でも、今すぐに死んでしまいたいって思うことはある。だけども、最近の学生ってみんなそういう所があるだろう。だからって、何歳のいつに死んでしまおうとは皆思うことはあまりない」  私がそう答えると、長者は勝ち(ほこ)ったように「あんなに本ばかり読んでるくせに面白くない回答だな」と下品(げひん)な笑みを浮かべた。 「俺は、二十代で死ぬんだ」
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