グッド・バイ

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 むろん分かっていた。 「それで、その話と。二十代で死にたいという話には、何らかの関わりがあるの?」  私はイジワルでそれを聞いてやった。私の中での確信として彼は同性愛について、何かしらの()げやりを感じているのを感じていた。  それが()ずかしさなのか、罪悪感(ざいあくかん)なのか、陶酔(とうすい)なのか。(さだか)かではないが、同性愛が許されるのなら死んでやる。または、許されざる行為であっても曲げることはない。そういった意志があるように思えた。それを無理やりにでもその震える口から引き出してやりたかった。  しかし、長者の回答は最後まで無言であり、そのまま彼は道を外れて帰っていった。  その背中を見送る彼女は、何かを口にした。言葉は響かない、(くちびる)が動いただけだ。もちろん読唇術(どくしんじゅつ)なんて習得(しゅうとく)してない私には、その言葉を見つけられるはずがない。  私にとって長者の告白よりも、彼女が何かを口にしたことが大きく心惹(こころひ)かれる出来事であった。そうして、家に帰りあの場面を反芻(はんすう)している時、ふとを小説として(とら)えようと思った。  あの一連の流れを文字として思い浮かべ、彼女の言葉を「」(かっこ)の記号で浮かべた瞬間、気持ちよいほどにぴったりとその言葉はハマった。 ――「グッド・バイ」  結局、長者とは卒業まで変わらない仲であった。しかし、ふとした時に彼は思い出したように目を()せて、何かに()えるように口を(つぐ)んだ。  また、彼が同じクラスの男子生徒にからかわれた際の、苦笑いがどこか照れているようにも感じた。体育の時も彼の視線は剣道部の主将(しゅしょう)の胸に()()まれているように見えた。  それは、ある意味偏見(へんけん)に他ならないのだが、偏見で彼を見てしまうことに一切の罪悪感はなく、またそのことに関して何もない様に受け入れ、嫌悪や興味が引き立てられない私がいた。  それは、ある意味別れそのものでもあった。体育でペアを組み、休み時間に利害の相対(そうたい)を行ったとしても、もう私たちは別れの中にあったのだ。  そのため、時が経っても私は長者が死んでしまったのかを知り得ていない。彼が男を抱くことができたのか、そういった人を見つけることができたのか。  しかし、夜な夜な死んでしまいたいと思いながらいまだにその準備の一切を(おこた)っている私のように、彼もどこかで生きているように思えた。その方が私は少しだけハッピーな気分になれるのだ。
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