ペルセウスは限りなく遠い所にある星を探し求める

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校舎裏 体育館近くの、トウカエデの木の下 昔、隣の駅にあったと言う女子校から、移植されたのだそうだ 新緑の葉が生い茂り、柔らかな風に揺れている 「なんで、先生とトラブってたんですか…?」 なんとなくのいきさつは、さっきぼんやり眺めていたから知っていたが、話題を振った 「あー… なんかジャージを履くのはダメだから脱げって言われてさあ なんで脱がなきゃいけねーのか意味わかんないから、なんで脱がなきゃなんねーんだよ!っつって…」 「…まあ、でも規則ですから… そう言う学校の校則には従わないと…頭髪服装検査の時くらい、言う事聞いたらどうですか?」 「はー… 白楽も先生みたいな事言って… 俺は制服のスカートなんか履きたくねえんだよ! なんで女子だからってスカート履かなきゃなんねーんだよ!」 「あなたの言い分は、すごくよくわかります スカートを履きたくないのは、スカートが嫌いだからですか? それとも、履く事に違和感があるからですか?」 「違和感…? 違和感は…ないけど… スカート嫌いじゃないし… まあ、好き好んで履きたいとは思わないけど 俺はかっこいい恰好が好きだからな! だから俺は、女だから制服はスカートって言う教師や、学校のステレオタイプな考えや言い方が気に入らないんだよ 寒かったら、ジャージ履いたっていいだろ 着たくなかったら、着なくてもいいだろ したい恰好くらい、好きにさせろよ それをさせないなら、女にもスラックス用意しとけよって」 「なるほど 僕が言っているのは、時と場合を考えて、と言う意味です 髪色はあれですけど、服装なんか頭髪服装検査の時くらいしか注意されないんだし…ちょっとの時間だけ我慢すればいいじゃないですか…」 「でも…なんか… 嫌なんだよ! 先生に偉そうに命令されたり指図されて、従うのがさあ!」 「…ガキくさ」 「はあ!?」 「お酒もタバコも、未成年は違反です 原チャリや二輪乗って登校も、健康な人や日本人が髪染めるのも、日本人がピアスを開けるのも、学校指定の制服を着ないのも、僕たちの学校では違反なんです 社会には、学校にはルールがあり、その規則に従わなければならないんですよ それは、その国やグループで生きる人間の、規則です 規則は秩序を守る為でもあるのです 無法地帯では安全に生きていけないから、秩序を設けているんですよ」 「…先生かよ」 「いえ」 『ウザ! もう、いい!こんな学校…』 「…そんなくだらない校則や規則の為に、学校を辞める事が、ダサいって事です」 「え…?」 「高々、三年間高校に通うだけなのに、その時の気分で、衝動で…人生を棒に振るのはもったいないと言う話です 高校の三年間なんて、人生で言ったらたったの三年間です 人生って、高校三年間だけじゃないですよ 高校生活より、高校以外の方が長いんです 高校は義務教育ではありませんが、就職する時は大抵高卒以上の資格が求められるんですよ その為の通過点を逸れて、わざわざ人生の幅を狭める…生きにくい人生を選択する必要性はないと思うんです」 「…真面目か」 「いえ、違います 僕は人より秀でるものがないから… 地味に 慎ましやかな学生生活を送っていく… そう言う生き方しか出来ないってだけです」 僕は中目黒さんみたいに、なり振り構わず自我を貫いて、意思を主張するほど… 勇気はないし パイオニアになれるほど、才がない 「そうか? あんじゃん 秀でてるもの」 え… 「女装だよ! 好きなんじゃねーの?得意なんだろ!? それって、人より才能があるって事だろ! 好きこそものの…なんだっけ?」 僕は中目黒さんから視線を逸らした 「…下手の横好きですよ それに 好きと得意は同義ではないです 才能あるなしは、また違った話なので… まあ…だとしても 僕は自分の好きな事や得意な事をして生きていく、と言う才能はないと思っているので…」
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