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校舎裏
目の前にはトウカエデの木があり、その後ろには田舎のだだっ広い校庭が広がる
野球部の人達が後片付けをしていた
「…ごめんね
急に」
引っ込んで来た涙と
少しだけ、落ち着いて来た情緒
「いや、大丈夫だ
私が、すまない…
気に障った事を言ってしまって…
配慮が足らなかった」
「ううん、そんな事はないから!
ないから…
…大丈夫」
反町くんが悪いんじゃ、ない
「私ね…
自分を、変えたくて…
声が小さい
笑顔がない
色々な人に、昔からずっとそう言われて
そんな自分が、嫌で…
そんな自分を変えたくて…
演劇部に入れば
劇で自己表現をするし
セリフを言ったり
歌を歌ったり
踊ったりもするはず
それをこなせるようになれば
変われるはず…
今までの私じゃ、なくなるはずって、思って…
演劇部に入ったんだ
でも…」
『もっと腹から声を出して!』
『口を大きく開けて、はっきりと発音して!』
『もっと笑顔で!』
『口角上げて!』
『もっと背筋伸ばして、前を見て!』
「頑張っても頑張っても…頑張っ…れなっ…」
また、涙が…
「っ…ごめん、なさい…」
「頑張る事を、頑張らなければいい」
「え…」
思わず顔を上げ、反町くんを見た
「何故頑張って変わる必要がある?
今のままの代官山くんでいいじゃないか
変えられないものを無理に変える必要もないだろう
それが、代官山くんの個性でもある
自分がダメだと思っている所より、いいと思う所、褒められた事に目を向ける方が、人生は楽しい」
いいと思う所…褒められた事…
「でも…
いいと思う所なんて…褒められた事なんて私には…」
「代官山くんは、部活も休まず毎日来て
与えられた役を真剣にこなしている
とても、真面目な性格で
疑問点を、ちゃんと部長や副部に聞ける意思もあり
素直さもある
そこが、代官山くんの素晴らしい所だ」
「そんな事は…」
「謙遜するところも、日本人らしい、慎ましやかなところだ
日本人の美徳であるとも言う
そんな所も、素敵だと思う」
素敵なんて…
私はそんな人間じゃない
そんな人間じゃない、けど…
「反町くんは、人をよく見ててすごいね…
気配りや、心配りが出来るし
色々な人に、頼られていて…
私はそう言うの、なくて…」
「すごくは、ない
私にあって代官山くんにないもの
代官山くんにあって私にないもの
人間はみな
輝く恒星を自分の中に持っているんだ」
輝く…
恒星…
「代官山くんは
もっと
自分に自信を持ちたまえ」
自…信…
か…
「…ありがとう…
反町くん…」
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