深海のくじらは夜空を眺める

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都道府県大会 今年の会場と言うのは、地元の文化会館だった 学校から電車で一駅、バスに乗り換えて30分で行けるような距離 演劇部員は電車で、美術舞台は車で行く事になった 散々 練習はして来たけど… 地区大会は突破したけど… やっぱり、本番になると… 毎回怖いし、緊張する 「うわぁ~、都道府県大会楽しみだねぇ! みんなどんな上演するんだろう!どんな人たちが来るのかなぁ!?」 隣で一緒に電車を待っている大倉山さんは、そんな事を言っている 楽しみ… 私にはその感覚が…わからない 「はぁ…柘榴は相変わらず能天気なんだから…」 「つーか、柘榴は主役じゃないから楽しいんだろ?」 「それなぁー!」 それも、そっか… 私はそれなりに目立つポジションでもあり、緊張してしまう… 「代官山くん、大丈夫か?」 はっとして隣を見ると、反町くんがいつの間にかいた 「そっ…反町くん…」 違う緊張感が走る 「ちょっと…緊張してる…」 二重の意味で…だけど 「気負わず、気楽にいけば、大丈夫だ」 「気負わず…気楽に…」 「もしそれでも緊張してしまったら 私を見たまえ」 「え…」 「変な顔をして、笑わせてやろう」 「っはは もう… なにそれ…」 「その、笑顔だ」 っ…う 反町くんの その笑顔の方が、破壊力あるんだってば… 会場につくと、あっという間に順番が回って来て… 舞台の幕が上がった 順調に劇は進み、いよいよ出番 『気負わず、気楽にいけば、大丈夫だ』 大丈夫… 私なら、出来る… 反町くんが照らしてくれる照明 私は夜空と言う舞台で輝く星 『もしそれでも緊張してしまったら 私を見たまえ』 あなたを見つめる、私はくじら座 恒星は、ミラ 極大等級2.0 2等星級の輝き 恋と言う、核融合反応 愛と言う、エネルギーの光 『その、笑顔だ』 あなたに、届けたい… あなたの笑顔で 勇気を貰ったから… 「ブロック大会まで進めなかったのは残念だが、都道府県大会まで来れた事、また優良賞も、代官山の貰った審査員特別賞も立派な賞である みな、その事を今大会の誇りに思って欲しい そして 我々三年は、今大会が最後であったが 来年の大会に向け 一、二年には、今大会の悔しさをバネに 更なる躍進を期待している!」 公民館の裏で、部長の言葉に、部員のみんなが耳を傾けていた 帰り道 駅に向かう道中 「代官山くん」 後ろから聞き覚えのある声が私の名を呼んだ 「反町くん…」 「審査員特別賞おめでとう」 あ… 「ありがとう」 「素晴らしいな 真面目な代官山くんの、日頃の成果であろう」 「反町くんの、お陰だよ」 「え?」 「「人間はみな 輝く恒星を自分の中に持っているんだ」って あの日反町くんが 教えてくれたから」 「反町くんは、人をよく見てて 気配りや、心配りが出来るし 色々な人に、頼られていて… 私はそう言うの、ないって思ってたけど でも そういう自分にないものって 結局ない物ねだりで 私は、その人にはなれないのに 憧れたり、眩しく見えちゃったりして その星が羨ましかったんだ あの人みたいになれたら あの人みたいに出来たら なんてね そうすると、自分の中の可能性とか、能力に気付きにくくなっちゃって 空回りばかりして… 探さなくても 私は、私の、可能性とか、能力とか そう言う輝くもの、持っているはずなのに」 「だから私 他の人にはなくて、私にしかない星を 好きになっていきたい」 「代官山さん!」 反町くんと、駅までの道を一緒にお喋りしながら歩いていたら 後ろから、二年の先輩達が話しかけて来た 「今日の演技、すごいよかったよ! あ、いつもがダメってわけじゃなくてね、今日はよりよかった!過去一!」 「え…」 「私もそう思う 正直さ、最初の頃は…台本忘れたり、声が小さかったり、笑顔なかったり…この子大丈夫かな、なんて思ったりしたんだ けど代官山さん、変わったね 賞もすごいよ、おめでとう!」 「あ、ありがとう…ございます…」 先輩に褒められて、思わず恥ずかしくなってしまって俯いた
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