深海のくじらは夜空を眺める

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「反町くん、まだ帰らないの?」 部活は終わったのに、まだ一人残って何か作業していた反町くんに話しかける 「ああ、代官山くん 三年生を送る会の、脚本を仕上げていてな…」 「今、どんな感じ?」 「大体の流れは完成した」 反町くんが、ノートを見せて来た 「これは、むかしむかしの、神話の物語… アルゴ座と言う、かつて星座であった、今は失われし星座をご存じでしょうか? アルゴ座はアルゴー船と言う、船の名からつけられた星座です アルゴー船には、カノープスと言う、船員を導く、水先案内人がいました その存在のお陰で、アルゴー船は幾多の困難を乗り越え、目的地にたどり着いたと言います つまり、ここまで部員がこれたのも、先輩方の大きな存在と導きがあってこそ あなた達は 私達のカノープス… 自ら光を放ち、輝く恒星(主役) これからもその輝きで、新たな舞台でもご活躍される事を、我々後輩ともども、応援しています… へえ… 星座のお話なんだね、すごくいいと思う!」 「カノープスは、北半球である日本では、見える緯度が限られているが 南半球では一年中見れる周極星、つまり 沈まない星 いつまでも 何処に行っても 夜空を見上げれば 逢える… そんな星でもある」 いつまでも 何処に行っても 夜空を見上げれば 逢える… 沈まない…星… 「反町くん、さ… 三年生を送る会って 反町くんの…独断で…したいと、思ったの?」 「そう、だな 今まで部を導いてくれた先輩方の為に きちんと最後にお礼の言葉を述べる機会を、設けた方がいいと思ったのだ」 最後に… 「我々一、二年は、先輩方に世話になっていたからな」 「そっか… そうだよね 反町くんのその気持ち、きっと先輩達も嬉しいと思う」 「そうだな そうだと、いいな」 「うん しっかり最後に、三年の先輩達、頑張ってって、送り出してあげよう!」 夜空に輝く恒星、ミラは あなたの傍で、ずっと輝いているから あなたの、隣で… 三年の先輩たちの卒業式の日 学校の最寄り駅近くにある、ちょっと和なテイストの大人な雰囲気のするレストラン そこを卒業式終わりに貸し切って、「三年生を送る会」を開催する事になって 卒業式終わり レストランに三年の先輩たちを呼び出し、ミュージカル仕立てのサプライズ風演出をした 「私達のカノープス! 自ら光を放ち、輝く恒星(主役)! これからもその輝きで、新たな舞台でもご活躍される事を、我々後輩ともども、応援しています」 反町くんが部長に花束を渡したところで、ミュージカル演出は無事完遂し 「三年間、演劇部、お疲れ様でしたぁー!」 「三年間ありがとうございます!」 「卒業おめでとうございまーす!」 口々に、一、二年の部員が言葉を発して 「な…なんだ…反町…に、他のみなも… これは…」 元部長も、嬉しそうな表情をしていて ミュージカル演出を終えた後は、食べ物や飲み物を囲んで、みんなで盛り上がっていたけど ふと、反町くんの姿が見えない事に気付いた
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