深海のくじらは夜空を眺める

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反町くん… 何処…行ったんだろ… 宴会場を抜けて、貸し切りで店員さんは厨房に出払っているのか、人のいないお店の廊下をうろうろ歩き、トイレの前を通り過ぎた時 入り口に人影が見えた 近寄ると 微かな話し声が聞こえる そっと、引き戸を開けた 細い細い隙間から、見えたもの 部長… と…、反町くん… 反射的に、お店のレジ横の壁面に隠れた また…二人で一緒に… 細い細い隙間から、二人の会話が聞こえる 「反町が企画したのか?…今回の」 「発案は私でしたが みなの企画、協力のお陰です」 「そうか この場を借りて、演劇部を引退した三年代表として礼を言う 我々、元演劇部、三年の為に 発案、企画し、会を開いてくれた事、感謝する ありがとう」 今日の…会の話… 「そして… ここからは 個人としての、反町に対して…最後に伝える言葉だ」 え…? 「星は… 何故輝いているか、理由がわかるか…?」 「核融合反応ですよね 原子核同士が融合する時に爆発が起き、そのエネルギーの放出によって星が輝いている…でしたっけ?」 「っふふ 反町は、真面目だな 星はな 観測者を見つめているから、輝くんだ 反町に カノープスの想いを 届けるために」 お店の入り口に外から足音が近づいて来て、張り付いていた壁から反射的に離れる 今の…って… 「こんなとこで、何やってるのぉ…?」 声のした方を向くと、大倉山さんが握りこぶしを口元に添えながら、もう片方の手はペンギンの羽の様にして、つま先で軽やかにステップを踏むように近付いて来た 「…部長が…反町くんに…」 「え?ぶちょーが反町くんに?」 あ… 「なんでも…ない…」 「ええ!! もしかして、告白とかぁ!?」 あっ… 「うそうそぉ~~! もしかして、あの外にいる影、二人!? ヤバーい!」 入り口の方に、軽やかに駆けて行く大倉山さん 「おおっ…くっ…」 引き戸の前でしばし大倉山さんは静止していたが、なんとそのまま引き戸を開けて、外に出て行った …嘘 なんで… 人が告白しているところに… 大倉山さんの行動に、理解が追いつかない… 「あ、代官山 柘榴知らない?」 宴会部屋に戻ろうとしたら、その部屋からひょっこり顔を出して来た、自由ヶ丘くん 「もうそろそろ貸し切り時間終わるみたいなんだけど あいつ会計担当名乗り出た癖に、肝心な時にいないし…」 大倉山さんは… ちらっとお店の入り口を見ると、中途半端に開いていた引き戸に手が掛けられ、数秒ほどした後、引き戸が開いて笑顔の大倉山さんが戻って来た 「あっ!柘榴「ああ!駆ん! ねえ聞いてよ!今ぶちょーが反町くんに、告ってて!」 「っえ!?」 あ… 「で、反町くん… 「私は 夜空を見つめ カノープスの想いを受け取る 観測者!」 って!! っはは!!」 「…うわー… なんっだそれ…」 カノープスの想いを受け取る… 観測者… 「普通に引くわぁ…その告白…?なの? もはや演劇のセリフじゃん…」 「ええー!なんでぇ~!? 柘榴そう言う告白、大好きっ! もし柘榴が告白される時は、そう言うロ~~~マンティックな言葉がいいなぁ~!!」 「…えぇー… 趣味悪…」 カノープスは…   南半球に輝く、沈まない星 カノープスがアルゴ船を導く水先案内人なら 反町くんは はるか昔から旅人や船乗りを導いてくれる 北半球の天頂に輝く、不動の星 おおぐま座の、ポラリス あなたは 部員を導く存在であり そして いつの時も 私を導いてくれた そんな あなたと言う星を見つめる 私はくじら座 でも あなたの目に 南半球の私は 写っていない ずっと… でも、おかしいな カノープスは見えるのに なんでかな…
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