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シュンは私の頭を軽く叩いた。
「おっきい声で俺の名前呼ぶなや」
「なんでなん」
「なんでって、恥ずかしいやんけ」
シュンは私より大人やったみたい。
わたしはシュンの視線の先にある、私の学校でもある東小学校を見た。土曜日やから正門はしまってて、その代わり正門の横にある人1人が通れる程のドアは開いてあった。図書室を利用する人はあそこから入ってええねん。
「シュンも東小学校出身なん」
シュンは校舎から視線を逃すことなく、首を横に振った。
「南小学校や」
「あー、バスケ強いとこか」
わたしらの小さな町には小学校が3つしかない。
東小学校、西小学校、南小学校。
北小学校ももともとはあってんけど少子化が進んだ結果、5年前くらいに廃校になってん。
「なんでここおるん」
シュンの横顔に問いかける。
「あ、タバコや。タバコパクってここまで走って逃げてきて。小学校が懐かしくなってなんとなく眺めてた」
「けどシュン南小学校やろ?」
「そやけど小学校なんてどこも同じやろ」シュンはやっと私の目を見てそう言った。
確かに校舎の見た目なんてそんなに大差は無いと思う。私も1年後、2年後、もっと大人になったらこの校舎の外見なんて何一つ覚えてないと思うし、内観なんてもっと忘れるんやろな。
「ケイゴの小学校はどこなん」
「ここ」
私はすぐ隣にある東小学校を指さす。
「あ、そうなんか」シュンは一瞬何かを考えるような、思い出すような、とにかくそんな顔をしてそれからポケットからタバコを取り出した。
「前あげたタバコ、最後まで吸えたか」
せっかくくれたのに、途中で捨てた。なんて言うたら失礼かなって思って、やから、「うん」って言うた。
そしたらシュンは少し笑って「そうか、もし暇なら俺ん家くるか?」って言うた。
私はシュンの言ってることを理解するのに少し時間がかかった。
人の家に誘われるのなんてすごい久しぶりやから。
髪を伸ばし始めて、女になってからは初めてのことや。
知らん人について行ったらあかん。って小学校でもよく言われるけど、シュンは知り合いやもん。んで、友達、というより同士やと思ってる。なんでかは分からへんねんけど。
たまたま遠足に持ってきているお菓子が同じ子がいて、その子に「一緒やな」って話しかけたくなるみたいな、この子と気が合うかもって期待しちゃう、みたいな。とにかくそんな感じ。
やからわたしは「行きたい」って言うた。
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